子どもの「やる気」を引き出すアプローチとは?(1)
テレビやゲームから離れずにダラダラと過ごす子どもの様子に耐えかねて、つい口をついて出る「勉強しなさい」という言葉。そう言われて素直に勉強してくれる子どもばかりなら、世の親は苦労しません。一体、子どものやる気はどこからわき出るものなのでしょうか。『「やる気」のある自分に出会える本』などの著書のある心理カウンセラーの笹氣健治氏にお話を伺いました。
やる気が起きないのは、その状態に「メリット」があるから
親「はやく勉強しなさい。いつまでダラダラしているの?」
子「今からやろうとしていたのに、そう言われると、やる気がなくなるよ」
中学生のいるご家庭では、よくあるやり取りではないでしょうか。私自身、中学生と高校生の親ですが、子どものやる気を引き出すのは難しいと日々実感しています。心理カウンセラーといえども、自分の子どもをやる気にさせるのは容易ではないのです。
子どもはなぜ、「勉強しなさい」と言われることをいやがるのか。混同させてはいけないのが、勉強をすることよりも、むしろ「勉強しなさい」と言われるのをいやがるということです。わかっていてもできないことを何度も言われるのは、誰だって気持ち良くありません。「はやく始めなきゃ……」と内心焦っているからこそ、「今からやろうとしていた」という言葉も自然と出てくるのでしょう。
では、やらなければいけないとわかっているのに、いつまでも始めないのはなぜでしょうか。それは、やらないことに「メリット」があるからです。例えば、次のような「メリット」が考えられます。
・ゲームなどの遊びの時間にまわせる。
・勉強して疲れることから逃れられる。
・勉強の苦痛から回避できる。
・勉強しないことで、親に関心をもってもらえる。
・親を困らせることで反抗心を示せる。
………etc.
「勉強しなさい」と強制するのは無意味
これらは無意識的な選択であり、自ら意図的にやる気を出さないことを選んでいるわけではないのです。しかし、結果的には勉強をしないことでさまざまな「メリット」を享受しているのです。
大人でも仕事や家事に対してやる気が起きずに苦しむことがありますが、多くの場合、勉強と同じように、仕事や家事をしないことに「メリット」があるからだと考えていいでしょう。ただ、大人と子どもの違いは、子どもは人生経験が少ないため、やらなければいけない行動を先送りすると、どのような辛い結果が待っているのかを具体的にイメージできないことです。だからこそ、「どうせ言ってもムダだから」と放っておくのではなく、子どもの気持ちに寄り添ってやる気を引き出すような親のサポートが大切になります。
その際に心がけてほしいのは、「強制」するのは無意味なだけではなく、子どもとの関係を悪化させかねないということです。「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」という「ことわざ」がありますが、「勉強しなさい」という言葉は、いってみれば水を飲ませようとする強制に他なりません。親ができるのは、子ども自身が勉強したいという気持ちをもてるようにサポートすることまでと心に留めておいてください。
人の幸せは、「人生ゲーム」のように決まっていない
子どものやる気を引き出すためには、親のスタンスが極めて重要ですので、もう少しその点を掘り下げてみましょう。親が「勉強しなさい」と言う根底には、子どもに対する期待や心配があります。親であれば、わが子の幸せを願い、無意味な失敗は避けてほしいと考えるのは当たり前です。そのため、自分の経験や知識をもとに、「こんな人生を送ってほしい」という理想に沿って子どもを導こうとします。
しかし、人の幸せは、「人生ゲーム」のように成功パターンが決まっているわけではありません。親が「良い大学に進んで、大企業に入ってほしい」と願っても、その道が必ずしも子どもにとってベストとはいえないのです。本人の適性や能力、興味から外れたことをしていれば生き難く感じるでしょうし、時代とともに花形産業が変わるように、過去の成功例が未来に当てはまる保証はどこにもありません。親の理想とはかけ離れた子ども自身の選択が、本人に幸せをもたらす可能性もあります。
人生経験の乏しい子どもの道しるべとなるのは親の役割ですが、かといって、子どもに親の理想を押し付けるのは考え物です。子育てにおいて最も大事なのは、子どもが自分一人でも社会を生き抜けるように鍛え上げることです。そのためには、子ども自身が主体的に考えてチャレンジし、失敗を乗り越える体験をさせることが必要です。子育ては親のためではなく、子どものためのものです。そう考えられれば、親の理想を強制することなく、子どもが勉強しない要因を一緒に解決して問題を乗り越えるような関わりができるようになるはずです。