不確実な時代に一人ひとりが自分の人生を歩めるよう、課題を見つけて向き合う力を「プロジェクト型学習」で高める【埼玉県戸田市立新曽中学校】

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各教科で学んだ知識や技能を総動員して、身近にある現実の課題を解決していく授業「プロジェクト型学習」をご存じですか?今回は、プロジェクト型学習の授業例を通して、これからの時代に必要な力や、家庭教育で参考にできる点などについて考えます。お話しいただくのは、市内の小・中学校で「プロジェクト型学習」を推進している埼玉県戸田市の教育委員会の先生と、戸田市立新曽中学校のプロジェクト型学習のアドバイザーを務める藤岡慎二先生です。

この記事のポイント

教師の役割は「指導」から「支援」へ

プロジェクト型学習の意義について、戸田市教育委員会の若村健一先生と中村篤先生は次のように説明します。
「かつては、必要な情報を手に入れることが難しかったため、知識を得ること自体に価値がありました。学校でも、教師が子どもに教科書の知識を伝え、指導することが大切にされてきました。
しかし、ネット社会に生きる今の子どもたちは、ほしい情報をいつでもどこでも手に入れることができます。学校でも、暗記やインプット中心の指導ではなく、身につけた知識をどのような場面でも使えるような活用の仕方を学ぶことが必要とされています。教師の役割も、子どもたちが『これを知りたい!もっと考えを深めたい!』とモチベーションを高める場面をつくったり、子どもの意欲や考えに応じた学び方をアドバイスしたりする『支援』の色合いが強くなっていきます。こうした学びのかたちを授業にしたのが『プロジェクト型学習』なのです」

授業拝見!中学校のプロジェクト型学習

ここでは、戸田市の新曽(にいぞ)中学校で行われたプロジェクト型学習の授業の様子をリポートします。

2021年11月、3年生の総合的な学習の時間。
受験や卒業が身近に感じるようになる頃、これまで戸田のまちで育ってきた証のひとつとして創作したオリジナルの卒業合唱曲を戸田市内の卒業式で歌い継いでもらいたいと考え、そのためにPR活動を行うことになりました。

授業の前半は、グループ分けです。「動画」「ポスター」など8つあるPR方法のうち、自分が行いたい方法を選び、同じ方法の希望者とグループを作ります。そのため、当初は特定の方法に希望者が偏ってしまいました。しかし先生は強制的に振り分けることをせず、状況を説明したうえで、生徒が納得し自発的に分散するまで見守っていた様子が印象的でした。

PR方法を考える際は、ワークシート(写真)も使いながら、PRする相手や、自分の得意なことなどを意識しながら考えを深めていきます。ワークシートには、この学習を通して身につけてほしい力や評価規準も書かれているため、自分が何のために、何を、どこまでがんばればよいかを、常に確認しながら学びに向かうことができます。

<授業で使ったワークシート>

プロジェクトの最終ゴールは、オリジナルの合唱曲を戸田市の卒業式での定番曲とすることです。結果はすぐに出ません。しかし、プロジェクト活動の中間発表を行ったり、市内の先生に実際にPRする場を設けたり、PRにあたって「誰に」「どのように」を考えたりすることで、生徒たちは「自作の曲を戸田のまちで育った証として世に残そう」という思いが盛り上がります。授業中、生徒たちは思い思いに活動していましたが、皆が意気込みにあふれ、しかも楽しそうに取り組んでいました。

<グループに分かれてPR方法を考えている様子>

プロジェクト型学習では、「自分が動けば世界が変わる!」という、子ども自身の思いの強さが学びの質を左右します。「これをすれば先生が喜ぶだろう」といった教師への忖度や、きれい事だけが並ぶ発表会では意味がありません。いかに子どもが「わくわく」できるか、「やりたい!」と自ら向き合う課題を見つけているかがポイントで、教師が普段から子どもたちの声に耳を傾け、寄り添っているからこそ実現できる学びなのです。

その習い事は本当にやりたいこと?子どもが何かに没頭できる環境づくりを

家庭教育でのヒントや、これからの時代に大切な力についても、若林先生と中村先生にお話しいただきました。

「プロジェクト型学習のポイントは、家庭教育にも当てはまる部分があります。子どもが課題を見つけて、もっと知りたい、よくしたいと思うのは、心からそれを楽しんで没頭している時です。それはささいな遊びや、親から見ればどうでもよいと感じる体験をしている際にも起こります。

一定の規律や集団行動が求められる学校と異なり、家庭では、その子の興味があることに存分に取り組むことが可能です。その家庭で日々『〇〇をやりなさい』『もう〇〇の時間よ』と言われ、子どもが追い立てられている状況では、主体的に課題を発見して関わろうとする力は育ちません。親が子どもを信じて干渉しすぎないことが大切だと思います。

習いごとも、本当に子どもがやりたいと思ってやっているか、折に触れて様子を見てみてください。もしかすると子どもはもっと別の打ち込みたいことがあるかもしれません。習い事でスキルを得ることに時間を費やすよりも、そうした興味関心事に費やす方が、自分で課題をみつけて解決しようとする力を育めるかもしれません。

2016年、大学入試センター試験の民間模試(5教科8科目)にAIロボットが挑んだところ、総合点で偏差値57.1の成績を収めたそうです。ということは、それ以下の成績の生徒が学んだ知識はAIがすべて代替できるかもしれず、代替されてしまう知識を得るために使った時間はなんだったのか、ということになってしまいます。これは極端な例ですが、お伝えしたいのは、これからの学びは教室内で教科書的な知識を得ることと同じかそれ以上に、『自分で問いを立て、正解の無い未知の課題に取り組む』『批判的・創造的に考え、粘り強くやり抜く』『仲間とともに何かをつくり上げる』といった経験が、これからの時代はさらに大切になるということです」

子どもへのTo Doを増やさない勇気、やらない勇気

家庭教育でのヒントについて、新曽中学校のプロジェクト型学習のアドバイザーを務める藤岡慎二先生にもお話しいただきました。

「もっと知りたい、何かをよりよくしたい、と願うことは、学びの土台となる重要な姿勢です。新曽中学校のような学びを積み重ねてきた生徒は、高校でぐっと伸びるでしょう。課題に立ち向かおうとする姿勢が身についていると、問題解決に必要なスキルや手法もどんどん身についていきます。

また、プロジェクト型学習を通して、『勉強というのは、教科書や参考書を使う以外のやりかたがある』ということに気づくことができます。それに気づいて救われる子どももいます。子どもたちには、そのようにして学びの可能性を感じ、広げていってほしいと思います。

そのために親ができることを無理に探す必要はありません。子どものためによりよい環境を用意しようとして、あれもこれもとなりがちですが、むしろ、やらないことを決める、くらいの気持ちが良いと思います。やることが積み重ねるばかりでは、次の一歩を踏み出す力がなくなってしまいます。子どもに対する『〇〇させたほうがよい』を増やさない勇気、やらない勇気を持ちましょう。

どんなに好きなことでも、壁にぶつかって諦めてしまいそうな時があります。子どもがそのような場合は『もう少し考えてみようか』と提案したり、『こんな考え方もあるよね、どう思う?』などと選択肢を示した上で選ばせたりすると良いでしょう。

また、思春期の子どもとのコミュニケーションは難しいものですが、親の言動や考え方を子どもはよく観察しています。例えば家族で出かけるときの予定を子どもに立ててもらうなど、上手に巻き込んで一緒に考え実行する機会をつくってみましょう。親自身が無理のない範囲で、自分の得意な方法で、子どもの学びをコーディネートしたり整理したりできると良いですね」

執筆/神田有希子

プロフィール

戸田市立新曽(にいぞ)中学校

1978年創立、生徒数1,000人を超える県内有数の大規模校。「生徒が主役の学校づくり」を学校の経営方針として、子どもが自ら課題をみつけ、考えを深める授業づくりに取り組んでいる。部活動も盛んで、中でも体操は毎年のように全国大会で入賞を果たしている。

プロフィール

戸田市教育委員会

先進的な教育改革で、全国で最も注目を集める教育委員会の1つ。70以上の民間企業や大学などと連携して最先端の学びを導入し、市を上げて課題解決力、創造力、主体性の育成に取り組んでいる。タブレット型端末の導入も早く、すでに多くの授業で当たり前のように使われている。

プロフィール

若村 健一 先生

戸田市教育委員会 主幹兼指導主事 若村 健一 先生

戸田市内の小学校や国立の附属小学校での勤務ののち、教育委員会へ。専門は生活科、総合的な学習の時間で、県の教員向け資料の編纂にも関わってきたほか、日本生活科・総合的学習教育学会の常任理事も務める。

プロフィール

中村 篤 先生

戸田市教育委員会 指導主事(教育政策担当) 中村 篤 先生

人材・教育系民間企業での勤務経験から、社会と学校を繋いでいく必要性を感じ、教育行政のプロ採用として戸田市教育委員会に転職。プロジェクト型学習の推進担当として、市内各校への授業指導や各種支援を行う。

プロフィール

藤岡 慎二 先生

藤岡 慎二 先生

産業能率大学経営学部教授、株式会社Prima Pinguino代表。戸田市をはじめ全国のプロジェクト型学習や新しい公立高校づくりなど、様々な学校教育分野のコンサルティング・プロデュースを手掛ける。

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