子どもと保護者のためにより良い医療を 小児薬物治療で本当に大切なことは?

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現在の日本は少子高齢化が進み、子どもの人口が少なくなっています。そのため、子どもの健やかな成長を支える「子どもの薬」は重要であるのにもかかわらず、「大人の薬」に比べ、開発が進みにくい状況があります。

国立成育医療研究センターの薬剤部長を務め、長年小児医療に携わってきた明治薬科大学の石川洋一教授は、「小児薬物治療の大切さに多くの人が気づくことが大事」と話します。

小児薬物治療が担う役割と、薬物治療を受ける子どもや保護者が気をつけたいこと、小児薬物治療の展望について、石川教授にお聞きしました。

この記事のポイント

子どもと大人の薬物治療はどのように異なる?

「20歳以降あまり変化しない大人の体に対し、子どもの体は発達の過程にあり絶えず変化しています。そこが最も大きな違いです」と話す石川教授。
「子どもは単純に体が大人より“小さい”のではなく、“臓器や代謝酵素などの発達”が進んでいるところと逆にあまり進んでいないところなどがあり、大人の体以上に慎重な見極めが必要です。

また発達の度合いは子どもによって個人差もあります。薬の包装の用法・用量に書かれた年齢だけを見て、“◯歳だからこの薬は投与できる、できない”など画一的に判断し、本来できるはずの薬物治療を行えなくなってしまったり、好ましくない薬を選んでしまう事例があるのは大変残念なことです」。

使用できる薬はどのように判断するのか、さらに話をお聞きしました。「病院など医療の現場で薬の効き方を調べる場合は、代表的なものとして、薬の血中濃度の変化を測定する方法があります。血液中の投与した薬の濃度が一定の時間を過ぎてもあまり変わっていなかったら、それはあまり代謝していないということです。代謝酵素そのものを検査するのは容易ではありませんが、研究に基づき、血中濃度から薬の効き方を予測することができます」。

ただ、家庭で市販薬を用いるケースでは、このような確認をするわけにもいきません。石川教授によると市販薬の注意書きに、何か1つでも子どもの状態と合致しないことが書かれていると、不安から使用しても問題のない薬を自分の子どもにとって禁忌と信じてしまう保護者も多いとのこと。
小児薬物治療の領域では、子ども一人ひとりの体が異なるのにもかかわらず、薬に添付されている「使用上の注意」が細かなケースまでカバーしきれていない実情があります。発達過程にある子どもの場合は、大人のように記載内容が一律に当てはまらないということは、押さえておきたい点です。

このような子どもの薬物治療がまだまだ発展・開発しきれていないことをふまえ、明治薬科大学の石川教授の「小児医薬品評価学研究室」は、小児に寄り添う薬剤師のあり方、小児が服用できる医薬品の開発、経済的でない医療の経営学まで、幅広く研究教育を進めるため、創設されたといいます。「小児期の分野に特化した授業や研究を行う薬科大学は少ないと思います。それ以外にも、本学では成人、臨床、健康増進、漢方など、さまざまな薬学を学びます。小児の分野といっても、親の病歴、生活環境などが関連することもあるため、多くの分野の専門知識を連結して、最適な支援ができる薬剤師の育成が明治薬科大学のめざすところです」。

子どもの薬のことで迷った場合は、スペシャリストである薬剤師に相談するのが一番

子どもには、新生児期、乳児期、幼児期といった発達段階があり、さらに発達の度合いに個人差があるため、大抵の場合、保護者が使用するのに適切な薬を選択するのは難しいものです。石川教授は「保護者には、一人で悩まず積極的に薬剤師に相談してほしい」といいます。

「地域で子どもの面倒を見るのが当たり前だった時代では、身近な子育ての先輩が薬のことも教えてくれる環境がありましたが、社会の形態も変わった現代では、それが難しくなっています。しかし保護者が、乳児期を含めた子どもの薬と正しく関わることはとても重要です。

例えば、持病で薬を飲んでいるために母乳で育てることを諦めてしまうお母さんがいます。しかし授乳はとても大切なこと。決して全ての薬が影響を及ぼすわけではなく、母乳で子育てをしながらでも安心して服用できる薬は多いのです。知識さえあれば、得られるはずの恩恵を逃すことはなくなりますので、より多くの方に、薬剤師を積極的に活用してほしいと思っています」。

小児薬物治療に強い薬剤師とは?

薬剤師の専門領域は、効能や副作用など、薬の効き方に関わることだけではありません。「薬剤師は、有効で安全な薬を教えてくれるだけではなく、薬の飲ませ方についても相談に乗ってくれます。
子どもは十人十色ですから、甘い薬は飲まないけれど、味噌汁と一緒なら飲むといった子どももいます。また、思春期の子どもだと保護者が薬を飲むように言っても聞かないところ、薬剤師が薬の重要性を伝えることによって、飲むようになった例もあります」。

現在は、小児薬物療法の専門家を“小児薬物療法認定薬剤師”として認定する制度もあります。また石川教授が在籍する明治薬科大学のように、小児に特化した研究を行い、学部で関連する授業を設けるなど、大学で小児薬物治療の教育研究が充実化することも、小児薬物治療が発展するためのポイントかもしれません。

明るい未来の形成に、小児薬物治療の発展は欠かせない

最後に、小児薬物治療が未来に向けて担う役割についてお聞きしました。「子どもが健やかに育たない限り、国も経済も決して発展することはありません。日本でもようやくそのことが少しずつ認識されるようになり、小児薬物治療の理想的な連携体制なども含んだ『成育基本法』が公布され、さらに子ども関連の取り組みを統括する『こども家庭庁』が、早ければ2023年度には創設される※など、今後小児医療が発展していくことが期待されます。子どもが元気になる姿は誰が見てもうれしいものです。未来の基盤を支える力といっても過言ではない小児薬物治療の大切さをより多くの人が認識してくれることを願っています」。
※2021年12月21日、こども家庭庁の基本方針が閣議決定された報道内容に基づく

まとめ & 実践 TIPS

誰もが気軽に情報発信をできるようになった今、情報の真偽を見定めるのが難しくなっています。小児薬物療法においても、「情報を見る目」はとても大切です。正しい判断をするポイントは、根拠が明確に示されているかを確認すること。厚生労働省や研究機関などが公表している公的な情報ソースには、きちんとそれが示されています。気になっていることが見つからない場合は、必ず薬剤師などの専門家に相談しましょう。誤った情報に踊らされないことは、子どもの健やかな成長を支える基本の一つです。

プロフィール

石川 洋一

1980年明治薬科大学卒業。同年より国立国際医療研究センター、国立病院機構東京医療センターほか国立病院5施設の薬剤部で勤務。2002年国立成育医療研究センター薬剤部主任。2009年同副薬剤部長。2013年同薬剤部長、同妊娠と薬情報センター副センター長併任。2015年同臨床研究開発センター臨床薬理研究室長併任。2018年より現職

明治薬科大学
https://www.my-pharm.ac.jp/

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