受験の低年齢化から考える高校受験

近年、首都圏・関西圏を中心に、中学受験人口が増え、小学校受験者も増加しています。とはいえ、多くの子どもたちにとって、最初に経験する受験といえばやはり高校受験です。 受験の低年齢化の背景と高校受験について、保護者のかたに知っておいていただきたいことについてお話しします。

2019年首都圏中学入試・志望動向から
~私立伝統校の復権・公立中高一貫校の志望増~

2019年、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の小学校卒業予定者は約29万4千人。うち、国立・私立中高一貫校受験者は約4.7万人で約16%、4年連続の受験率上昇となりました。
ここ数年、高校入試と同様、中学入試でも大学付属校の人気が続いていますが、2019年では、学習院、立教池袋、学習院女子、白百合学園、立教女学院、青山学院、成蹊、成城学園といった学校の出願数増が目立ちました。これらは大学付属・系列校であると同時に、小学校があり、初年度納入金が110万円を超える伝統校であることが共通しています。

この動向に対して、「経済的に余裕があり、かつ教育に熱心な家庭の増加」と見ることもできますが、大学入試改革、ひいては学力観の変化の影響も大きいと思います。今後、大学の一般入試の募集人員が縮小され、AO入試(「総合型選抜」に名称変更される)、推薦入試(「学校推薦型選抜」に名称変更される)の割合が大きくなっていきます。これまでのような1度のペーパーテストによる選抜が主流ではなく、学力、熱意、適性などを総合的に評価する方向へと進んでいくのです。
学習だけでなく、部活動や行事、ボランティア活動や外部コンテストなど、高校時代の全生活が評価の対象となります。前出のような私立伝統校は、図書館などの設備が整っていたり、学習内容が以前から探究型であったり、海外研修や留学制度が充実しているなど、環境面が恵まれていることが多いため「多様な体験ができるのでは」と考えた保護者が多いのではないのではないでしょうか。

また、都内の公立中高一貫校の志望者は6年ぶりに増加しています(2018年 8977人→2019年 9019人)。公立中高一貫校の入試は「適性検査」と呼ばれ、小学校の学習範囲以外からは出題されません。また、早くから探究型の学習が行われ、近年高い大学合格実績を誇っているため、高倍率が続いています。
それでも志望者が増えたのは、私立は経済的な理由で難しいけれど、公立中高一貫校であれば6年間の一貫教育を受けさせられると考えた保護者が多かったのではないかと思います。

選抜方法の多様化——「ふるい落とし」から「マッチングへ」

中学受験といえば、「難関中学に入れ、効率的に受験勉強をさせて難関大学に合格させるため」にするもので、そのためには「早くから塾通いをして、小学校では習わない難しい問題をたくさん解かねばならない」といったイメージをお持ちのかたもいらっしゃるかもしれません。
しかし、この志望動向からは、そのようなイメージとはかなり違った方向性が見えてきます。また、入試方法そのものも従来からの2教科、4教科に加え、「思考力型」「プレゼンテーション型」などさまざまな形があり、基礎的な知識・技能をもとに思考力や判断力、表現力を問う入試が増えてきています。

このような選抜方法は点数による「ふるい落とし」ではなく、その学校を志望する生徒と、こんな生徒に入ってほしいと望む学校との「マッチング」であり、今後大学入試で主流になっていく推薦・AO入試と同じ考え方がもとになっています。「自分の好きなことやこれから学びたいことは何か」「自分はどんな環境で何を身につけたいか」について主体的に考えることが求められているのです。
いろいろなタイプの入試が増えている背景には、塾通いの時期を短くしたり、通わせなかったりというご家庭や、習い事やスポーツクラブを小6生でも続けさせるというご家庭が増えているということもあります。

本人の意思がより大きな意味を持つ高校受験こそ「好き」を生かす学びを

受験する年齢が低いほど、保護者の関与は大きくならざるをえません。全体から見れば少数が挑む中学受験と違い、中学卒業後の進路選択は誰もがしなくてはならないものです。中学生たちは幼くは見えても、先輩や友達の姿を見ながら「自分の進路は自分で選ばなくてはどうにもならない」ということを理解していきます。本人の意思決定の割合がより高いのが高校受験といえるでしょう。

そこで大切なのは「親や先生に言われて」「仕方ないから」選ぶのではなく、「自分の好きなことや学びたいこと」について主体的に考え、進路に結びつける姿勢です。その前提として、「好きなこと、得意なことは思う存分やっていい」「自分の適性を将来に生かせる」という実感が必要になります。
思春期は、自分と人との違いに気づき始める多感な時期です。「誰もがプロスポーツ選手や芸能人になれるわけではない」と気づいたり、自分と人とを比べて悩んだりしがちです。そんな時期に「テストで良い点を取ることが何より大事」「好きなことをやるのは大人になるまでがまんしなさい」「あまり人と違うこと、目立つことはしないほうがいい」……周囲の大人がこんなふうに言っていると、子どもは学ぶ意欲を失ってしまいます。

中学時代は定期テストや学校行事、部活動などで忙しく、目の前のことに追われがちです。しかし、お子さまに何か好きなことがあれば、たとえ勉強と関係なく思えても、可能な限り、その分野で一流のものに触れさせてあげてください。「好き」が、その子らしい思考力や表現力の源となるからです。大学入試改革の方向性を見据え、中学入試はすでにその方向に行っており、高校入試も変わりつつあります。このことをぜひ意識しておいていただきたいと思います。

プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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