公立高校の志望率、昨年に続き低下 2019年首都圏高校入試の志望動向をよむ

2019年首都圏高校入試の志望動向について、東京、神奈川、埼玉の進路希望調査に基づいてお話しします。

都立志望率は昨年に続き低下 主要因は私立高校の授業料実質無償化

●東京都の志望動向

中学校卒業予定者(公立中高一貫校の内部進学者を除く)は76,641人で、前年より334人減少しています。卒業予定者に占める全日制都立高校の志望者は51,280人で、都立志望者が3,000人余り減少した昨年よりさらに約1,200人減少しました。卒業予定者に占める割合は66.9%で、昨年の68.2%から1.3%低下しています。
都立高校全体の平均志望倍率は1.25倍と、2008年以降で最も低い値となりました。

その主な要因は、東京都が私立高校生向け奨学金の給付対象を大幅に広げたことにあります。2017年から、都内在住の年収760万円未満の世帯を対象に、国の就学支援金と合わせて、都内の私立高校平均授業料44万2000円までの助成金が支給されることとなったのです。その結果、これまでは経済的な理由で私立は検討してこなかった世帯が、「都立と同程度の学費なら」と私立を選ぶケースが増えたとみられ、2018年は都立志望者が目立って減少しました。2019年もその傾向が続いたといえます。

「私立等志望者数」は(国立、他県公立を含む男女計)は18,474人で、昨年より725人増加しました。
2008年のリーマンショックの影響で、2009年には私立の志望者が大きく減り、以後は横ばい傾向にありました。2019年の卒業予定者に占める「私立等志望者」の割合は、男子が25.7%、女子が22.3%となり、いずれも2008年以降で最高値に達しています。

難関都立の志望者数には大きな変化なし 中上位~中位層に変化

では、都立高校全体が入りやすくなっているかというとそういうわけではありません。
普通科の学校を合格基準偏差値で6段階に分け、各段階の志望者数の3年間の変化を調べたところ、高難易度の学校(63以上)の志望者数は、男女とも3年間ほとんど変化がみられませんでした。また、2018年には、男女とも40未満の学校で志望者数が減少していましたが、2019年は、男子ではむしろ増加がみられました。

一方、2019年に、志望者が減少したのは、男子では57~62、46~50、女子では57~62、51~56と、難易度が中上位~中位の学校で志望者の減少がみられました。この成績層の中には、私立大学の付属校を志望した人が多いとみられます。
都立の難関にチャレンジする志望者の数は毎年あまり変わりませんが、それ以外の受験生にはさまざまな選択肢が増えて、動向が読みにくくなっているといえるかもしれません。

また、通信制志望者(私立)は1,773人で、前年より275人増加しました。2013年と比べると6倍以上となっています。

●神奈川県の志望動向

神奈川県内の公立高校(全日制)への進学を希望する生徒の割合は79.0%で、前年より1.3ポイント減少しています。一方、県内の私立高校(全日制)の志望者の割合は7.3%、県外の私立高校の志望者の割合は3.9%で、いずれも前年より上昇しています。
また、通信制への進学希望率は2.3%で、前年より0.4ポイントアップしました。

神奈川県では、2018年、大学進学実績向上に重点を置いた「学力向上進学重点校」を横浜翠嵐、湘南、柏陽、厚木の4校に絞りました。これらの学校にはいずれも数多くの志望者が集まっていますが、とりわけ前年の大学進学実績が高かった湘南の志望者の多さが目立ちます。

●埼玉県の志望動向

中学校卒業予定者は前年より981人減少。県内公立高校への進学希望者は前年より1,187人減で69.3%(0.8ポイント減)、県内私立高校への進学希望者は前年より125人減で15.9%(志望率は前年と変わらず)、県外への進学希望者は184人増で7.0%(0.4ポイント増)となっています。
また、通信制高校の志望者は282人増(0.5ポイント増)でした。
なお、埼玉県の私立高校に対する授業料無償化制度(埼玉県私立高等学校等父母負担軽減事業補助制度)は、県外の私立高校に進んだ場合は対象外となるのですが、それでも県外(おもに東京の学校)への進学を希望する生徒が増えつつあることがわかります。

このように、首都圏の志望動向には、昨年に続き、私立高校の「授業料実質無料化」の影響がみられます。おそらく今後も、「公立から私立へ」という単純な流れではなく、公立・私立を問わず、志望者の集中する学校とそうでない学校との間に格差が広がっていくのではないでしょうか。少子化の進展により、今後、公立高校の再編が進むのではないかと考えられます。

参照資料)

東京都「平成31年度都立高校全日制等志望予定(第1志望)調査結果」(2018年12月14日調査、2019年1月8日発表)、
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/01/08/02.html

神奈川県「平成30年度公立中学校等卒業予定者の進路希望の状況」(2018年10月20日調査、11月20日発表)
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/u5t/edu_stat/jr_high_course_hope/h30_page.html

埼玉県「平成31年3月中学校等卒業予定者の進路希望状況調査」(2018年12月15日現在、2019年1月11日発表)
https://www.pref.saitama.lg.jp/f2203/shinrokibou201812.html

※いずれも実際の出願前の数値です。

プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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