[高校受験] 別の視点から世界を見るきっかけを

大学入試改革の方向性を受けて、高校入試でも思考力を問う問題が増えています。前回に続き、思考力を磨くためにご家庭でできることについてさらに詳しくお話しします。

切手の意味がわからない?——少し不便なこともあえて体験させて

前回お話しした通り、高校入試では実社会の身近な題材をもとに思考力を問う問題が増えています。今後は、机上の勉強だけでなく、家庭や社会での実体験がとても大切になります。その一方で、生活が便利になりすぎているため、今の子どもたちは実体験が乏しくなりがちな傾向があるのではないでしょうか。

何校かの高校の先生にこんな話を聞きました。出願の際、合否通知のため、返信用封筒に切手を貼ったものを持参するよう求めたところ、切手でなく収入印紙を貼ってきたり、切手を重ねて貼ってくるなど、切手の貼り方を知らない受験生が多いのに驚いたというのです。近年はほとんどの用事がメールですんでしまうので、封書を出したことのない子が多いのも無理のないことです。
ほうきで掃く、雑巾を絞る、急須でお茶を入れる、アンテナを動かしてラジオのチューニングをする等、最近行う機会が減ったことはたくさんあります。便利さは良いことですが、しなくなった故に失われた感覚もあると思います。道具や食材を扱う感覚は物理や化学につながりますし、歴史や文学を学ぶ際にも役立ちます。ご家庭でも「少し不便なこと」もあえて体験させる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。

リアルな出会いが「視点を変えてものを見る」きっかけに

これは、東南アジアでの国際交流を積極的に行っている学校の先生にうかがった話です。日本の子どもたちは、渡航先での1日目は自分の趣味や日本文化について準備してきた内容をよく話すけれど、2日目以降、話題の中心がTPPなど世界情勢に移ると、とたんに口数が少なくなるといいます。これは英語力の問題ではありません。ふだんの話題がアイドル、アニメ、ファッション……といったことが多く、社会への関心が低い傾向があるからでしょう。東南アジアの子どもに比べ、日本の子どもにとっては戦争や政変、テロといった現実から遠く「政治には関心を持たなくても大丈夫」と思える平和な状態が長く続いたためかもしれません。

別の中高一貫校では、毎年希望者をタイ奥地の少数民族の村に連れて行くそうです。生徒たちは、戦争や人身売買など同世代の子どもたちが直面している過酷な現実を知り、自分が学ぶ意味を考えさせられて、驚くほどしっかりして帰ってくるケースが多いといいます。

このように、リアルな原体験は世界の見方を変え、異なる立場からものを考えるきっかけになります。こういう体験は海外でなければできないというものではありません。たとえばお子さまが興味のある仕事の現場を見学するとか、ご親戚が入院している病院や施設にお見舞いに行く、といったことでもよいかもしれません。広く言えば、非日常を体験することが大切なのです。

「もし~だったら」と想像することが、思考力と倫理観を育てる

「自分が大人だったら」「もし健康でなかったら」「もし日本に生まれていなかったら」……このように、人の立場に立って発想を変えることは、思考力と倫理観を育てる上でとても大切です。漠然とした言い方で恐縮ですが、10~20年後には、今ある仕事の半数近くがAI化される可能性が高いとも言われる今だからこそ、「有能である」ことより、「誰からも信頼される」ことの大切さがクローズアップされてきたのではないでしょうか。有能さの意味は時代によって変化しますが、人間として大切にすべき倫理観には普遍性があると思います。

入試に関係なくても、中学で学ぶ9教科は大切に

中学3年生は発達段階上、学んだことが実になる時期といえます。また、変化の多い時代を生きていく今の子どもたちは、この先、一つの会社や職種で定年まで勤め上げる可能性は少ないと考えられます。ですから、たとえ推薦入試を受けられるので学科試験は必要ないとか、私立が第一志望で3教科で入試を受けられるとしても、中学で学ぶ9教科はどれも「捨て」てしまわず、定期テスト対策をする、提出物をきちんと出すなど、しっかり学んでほしいと思います。どんな仕事につくにしろ、中学で学んだことは基礎になるからです。特に数学は、AIの時代に不可欠だといわれています。
幅広い興味を持ち続けること、「汎用性のある学力」を身につけることが、この先の変化の時代を生き抜くための力となるでしょう。

(筆者:安田 理)

プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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