速報!2017年首都圏中学入試 社会

2017(平成29)年の首都圏中学入試には、どんな傾向が見られ、どんな力が問われたのでしょうか。
森上教育研究所主催のセミナー「平成29年首都圏中学入試の結果と分析」(分析校100校)での、文教大学の早川明夫先生による「社会」の分析をお届けします。

※以下は同セミナーでの早川明夫先生による分析を抄録したものです。

■基礎・基本問題が合否を分ける

社会科も、他教科と同様、基礎・基本の知識を問う問題が入試問題の大部分を占めており、合否は基礎基本問題の出来具合で決まるといっても過言ではありません。ただし、それが正確に定着していることが大切です。
選択肢問題では、「正しいものを2つ」「間違っているものをすべて」など、複数の答えを選ばせる問題が増えています。
また、渋谷学園幕張で出題されたイギリスのEU離脱に関する問題のように、XとYの2つの文章が提示され、XY両方が正しい、Xのみが正しい、Yのみが正しい、両方が誤り、という4つの選択肢から1つを選ばせる形式も増えています。これは知識の正確さを問うための工夫といえます。

なお、大学入試レベルの知識を問う難問もまれに出題されますが、このような難問の対策をとるより、基礎基本に力を入れたほうがよいでしょう。
また、開成では「神田明神」、「不忍池」などを漢字で書かせる問題が出題されました。このように、学校周辺の地理・歴史に関する「ご当地問題」を出題する学校もありますので、その場合は対策を立てる必要があります。

■記述問題、資料読み取り問題は増加傾向——「?」を大事にする学び方を

問題の形式を見ると、用語を漢字で書くことは7割の学校で求められており、記述も8割の学校で出題されています。また、地形図は35%、統計が88%、写真・図画が63%で出題されており、資料の読み取りを出題しない学校はないといってよいでしょう。
記述問題や資料の読み取りでは、理由を尋ねる問題が大部分ですから、日頃から様々なことに興味を持ち、「?」を大事にする学び方が大切です。

■時事問題の出題は増加。略号も時事問題を反映

時事問題、あるいは時事問題を念頭において出題された問題は、およそ9割の学校で出題されました。

1位の参議院議員選挙は、議員の任期や定数など、参議院についての基礎的な知識を問う問題が多数出題されました。
2位のイギリスEU離脱に関しては、ユーロの切り替えやイギリスの地理等について問われました。
4位のオバマ大統領広島訪問に関しては、演説の内容を出題した学校も4校ありました。
5位の伊勢志摩サミットについては、サミットの正式名称(先進国首脳会議)や開かれた島の名前(賢島)やそこで開かれた理由を、地図や写真を見ながら書かせる問題が出題されています。
7位の都知事選に関しては、小池都知事の名前を漢字で書かせる出題も見られました。

また、家康没後400年、吉野作造の民本主義100年、日本国憲法発布70年、水俣病公式認定60年、日本の国連加盟60年といった周年問題も出題されています。

尚、略号については、時事問題を反映し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が5校、TPP(環太平洋経済連携協定)が5校、EU(ヨーロッパ連合)が4校で出題されました。

■憲法は25条、9条の条文が頻出

憲法の条文は、37%の学校で出題されました。多かったのが25条(生存権)で、社会保障や少子高齢化に関連し、11校で出題。9条(戦争の放棄)も9校で出題されています。このほか、1条(天皇の地位・国民主権)、27条(勤労の権利と義務)、前文(国民主権など)も4校で出題されました。

■小学校の教科書からの出題が増加

近年、小学校の教科書(特に6年)からの出題が、難関校を中心に増えています。今年度も、開成・麻布・駒場東邦、芝、桜蔭、女子学院、雙葉、横浜雙葉など多数の学校で出題されました。
たとえば開成では『江戸図屏風』にみられる天守閣、高札、「うだつ」についての問題、麻布では、長野県松本市にある開智学校の写真が示され、この建築物の名前や建てられた場所を問う問題が出題されています。
このような問題の対策としては、「なぜ」「どうして」を念頭において教科書を精読すること、絵画や写真資料から何が読み取れるか注意深く見る、絵画や写真のキャプションを特に注意して読むことが挙げられます。

■身近なものをテーマにした問題が増えている

駅のナンバリングについての問題が開成、学習院中等科で、ジェネリック薬品についての問題が淑徳与野で、アルミニウム製品のリサイクルに関する問題が桜蔭で出題されています(愛知県の海陽学園でも類題を出題)。豊島岡では、いちごのショートケーキに関連して、ケーキの材料の自給率や産地、陶磁器やフォークなど洋食器の生産地などを問う問題を出題。その他、塩作り(武蔵)、住宅と町(麻布)、紙(栄光)、和食(逗子開成、桐蔭)、衣類(渋谷学園渋谷)、茶(桜蔭)、遊び(大妻女子)、火(吉祥女子)など、様々な身近なテーマが出題されています。本郷の「貼る、くっつける」をテーマにした問題は、「歴史のないものはない」と実感させる面白い問題でした。

■複数の資料を用いた読み取り問題が増加傾向

他教科同様、問題文は長文化の傾向にあり、提示される資料も増えています。たとえば駒場東邦では、食料自給率の国ごとの比較、日本・イギリスの品目別生産・供給量、日本人ひとり1日当たりの食べ物の変化など、複数の資料を読みながら、食料自給率について深く考察する問題が出題されています。
このような問題には、単なる分析だけでなく、その背景にある「理由」を問う深読みの力が求められます。

■思考力・応用力が問われる問題

たとえば渋谷学園幕張では、日本のロケットの打ち上げ射場がある都道府県名を問い、そこに設けられた理由について、「自然条件および当時の日本がおかれていた状況について」述べるという問題が出題されました。
正解は鹿児島県。ロケットの打ち上げには、地球の自転の速さを利用するため、低緯度のところほど有利です。本来なら沖縄県がベストですが、沖縄は米軍の支配下にあったため、打ち上げ基地をつくることができなかった、というのが理由になります。理科と社会の両方の知識が必要とされる良問といえます。

■今後の対策——基礎基本の徹底、教科横断的な学習を

今後は、基礎基本の定着、正確な知識を身につけることが大切です。教科書からの出題も増えていますので、教科書を精読するとともに巻末の索引で用語チェックを行いましょう。
また、様々なことに興味をもち、調べる習慣をつけることが、教科の枠を超えた横断的な学習につながります。小学生向けの新聞や雑誌を読むことで、時事問題に強くなれるとともに、興味関心も広がり、文章や資料を批判的に読む力もつきます。
「社会科のアンテナ」を高く張って、思考力や読解力、表現力を身につけていきましょう。

プロフィール


早川明夫

社会科入試問題研究の第一人者。大学付属中高の教頭を経て、文教大学で社会科の教員養成にあたった。現在、文教大学地域連携センター講師。主な著書に『応用自在』『考える社会科地図』『総合資料日本史』『地図っておもしろい!』(監修・執筆)ほか多数。『ジュニアエラ』の総監修者。

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