得意をつくる! [中学受験] 5年生

保護者の役割は、成長に応じてベストのタイミングで働きかけ、環境を整えていくこと。5年生を対象に「得意をつくる」方法について取り上げます。



■認知方法にも得意、不得意がある!

中学受験において、苦手をつくらないことは重要です。難関校の受験を視野に入れた場合、全教科得意とはいかなくても、せめて「食わず嫌い」はなくしておく必要があります。しかし、保護者が苦手克服ばかりに気をとられていると、子どもとしては「イヤなものを押し付けられている」という意識を抱きがちになります。
この時期はぜひ、お子さまの「得意」に注目してみてください。

5年生は、認知能力の特性がはっきりしてくる時期です。コミュニケーション力に深く関係している能力として、視覚、聴覚、言語能力の3つがあります。この3つにも、得意不得意があるのです。
たとえば視覚が優位な場合、写真を撮るように、映像をそのまま記憶することが得意。ものを考える時も、頭の中で、言葉より映像を操っているといいます。聴覚が優位な人は、耳から聞いたことはよく頭に入ります。町で流れている歌や、CMのフレーズなどをすぐ覚えられる人はこのタイプ。言語能力が優れた人は、文章から情景を思い浮かべたり、体験したことを文章化するのが得意です。



■得意な認知方法を生かす

保護者のかたがお子さまを見ていて、どうもこの子は視覚優位で、見て理解するほうが得意だなと思ったら、文章を読ませるより、絵や写真を見せたり、図を描いて説明したりするほうがよく理解できるかもしれません。聴覚優位ならば、文章は黙読させるより、読み聞かせや読み合わせするとよく理解できる傾向があります。言語優位で本や作文が好きならば、勉強と関係があるなしにかかわらず、どんどん読んだり書いたりすることをすすめてください。
また、視覚優位の場合、一気に全体像をとらえて理解するのは得意だけれど、言葉にするのは苦手なケースがあります。一方、聴覚優位の場合、細部を順々にとらえて、全体像をゆっくりと理解していくのが得意なようです。これらは認知の仕方の特徴であって、どちらが優れているとはいえません。
認知能力は、得意な面を伸ばしてあげることが大切です。得意な認知方法を知って、それを生かせれば、勉強が非常に楽になります。お子さまのものの見方、考え方の特性をよく観察してみてください。



■「高い視点から見る」経験を

最近、数学オリンピックに入賞経験のある、素晴らしい数学の先生の講演を聴く機会がありました。その中で、「教科書の中の問題や、入試問題一つひとつの解き方を解説するより、もっと汎用(はんよう)性の高い原理を教えたい。この原理さえ知っていれば、さまざまな問題が一発できれいに解ける、というような。そのほうがカッコいいでしょう」というお話が、とても印象的でした。
一流の先生は、入試にしか役立たない知識やテクニックではなく、さまざまな場面で応用できるものの見方を教えてくれます。いわば、高い視点からの、見晴らしのよい眺めを体感させてくれる。これは、どんな分野でも同じです。ですから、お子さまに何か得意なこと、好きなことがあれば、ぜひその分野の一流の人や作品にふれさせてあげてください。講演会に行く、劇場で芸術を鑑賞する、スタジアムでスポーツを観戦するなど、生でふれるのが一番ですが、テレビやインターネットの映像を通してふれる方法もあります。



■“得意”“好き”は学習の「種火」

5年生は、自分の好みや適性がはっきりしてくると共に、物事を深く考えるのに適した時期でもあります。
得意なこと、好きなことがひとつでもあると、それは今後、学習意欲に直接結び付いてきます。“サッカー”でも“電車”でも“お笑い”でも“ファッション”でも、なんでもかまいません。保護者のかたが「この子は、これが本当に好きなんだな」と思われたら、それがたとえ勉強に関係なく見える趣味や習い事でも、それに取り組む時間を、週に2、3時間はとってあげるべきです。「勉強時間が足りなくなるのではないか」と不安に思われるかもしれませんが、好きなことは持続していたほうが、結局は学習効率もよくなります。“得意”“好き”は、いわば学ぶための「種火」。6年生の2学期以降、受験が近付いてきて一念発起すると、たとえばサッカー好きの子なら「これはサッカーでいえばこういうことかな」というふうに、さまざまな知識や理論を、サッカーと結び付けながら身に付けることができるようになるケースも多いのです。種火が付いていれば、さまざまなものを燃やして炎を大きくすることができるように、“得意”や “好き”を大切にしていると、それが学んだ知識と結び付いて、その子独自のものの見方が身に付いてきます。独自の視点を持つことができれば、それは受験で燃え尽きることのない、一生の財産となるのです。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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