類似問題や数値替え問題はすらすら解けるのに、第一印象でひらめかないと迷い込んでしまう[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6男子(性格:大ざっぱ・感情的なタイプ)のお母さま


質問

初めて見る文章題が苦手です。類似問題や数値替え問題はすらすら解けるのに、第一印象でひらめかないと迷い込んでしまうようです。普段は小問演習と苦手な速さの応用問題を中心に取り組んでいますが、受験用の過去問に苦手意識があるようです。一方、ひらめきで当たると難問が解けるのに、計算などの基本的なミス(和差乗商問わず)が目立つ時があります。


小泉先生のアドバイス

「ひらめき」は入試問題を数多くこなすことで自然に身に付いてくる。

類似問題や数値替え問題なら比較的簡単に解けるお子さまでも、初めて見るような問題はやはり難しいと感じることが多いでしょう。それでも文章題の内容を図にしたり、図形に補助線などをひいたりしているうちに、何かをひらめき、やがて解法が見えてくる時があります。まさに、算数の醍醐味(だいごみ)を味わえる瞬間ではありますが、さて、この「ひらめき」とは何なのでしょうか。「アイデアが空から降りてくる瞬間」と思いたいのですが、実は多くの場合「以前学習した解法パターンに導けることを見つけた瞬間」なのです。つまり“初めての問題”に見えていただけで、実は以前に解いた問題の体裁が少し変わっているだけの場合も少なくないのです。
入学試験では時間制限が厳しいので、どこかで見たような問題でないと難しい算数の問題はまず解けるものではありません。算数や数学は「ひらめき」の教科のように思われがちですが、前にやった問題の解法を思い出し、それらを使って少し体裁の違う問題を解く教科であるともいえます。受験の算数は天才的なひらめきの才が必要な教科というよりも、努力して題数をこなせば、誰でもある程度高い偏差値をとれる教科なのです。あるいは、そのような「ひらめき」は入試問題を数多くこなすことで自然に身に付いてくるともいえるでしょう。

たとえば、次のような図形の問題を考えてみましょう。
※ご質問では「初めて見る文章題が苦手」ということですが、パッと見てわかりやすい平面図形の問題を例として挙げました。また、実際に面積を求めるためには三角形の辺の長さが必要ですが、今回は数値も省略してあります。


例題1
右の図のような直角三角形ABCを、頂点Cを
中心にして矢印の方向に90度回転させました。
辺ABが動いたあとの図形の面積は何cm²ですか。



さて、例題1のような図形の問題は、ほとんどのお子さまが1回は解いたことがあると思います。解き方はいたって簡単ですが、最初に取り組んだ時は「こんな変な形(影の部分)の面積をどうやって出すのか?」と悩んだことでしょう。しかし、図2に示すように左の影の部分を右に移動することにより、求める部分は図3の影の部分であり、実はおうぎ形CAA’の面積からおうぎ形CBB’の面積をひけばすぐに出ることを授業で(あるいは参考書で)習うと、図形の移動の問題の基本中の基本になってしまうのです。




例題2
右の図のような直角三角形ABCを、頂点Cを
中心にして矢印の方向に90度回転させました。
辺ABが動いたあとの図形の面積は何cm²ですか。



それでは例題2のような問題はどうでしょうか。この問題は例題1とまったく同じですが、辺ABが動いたあとの図形が描かれていない分不親切になっています。そのため、例題1をどこかでやったことのあるお子さまでも、何か「初めて見る問題」のような気がする可能性があります。しかし、試行錯誤をくり返すうちに辺ABが動いたあとの図形を図にかき込み、解法を「ひらめく」ことになります。今回の例はわかりやすくするためにやや極端な例を挙げました。実際はカムフラージュするために、もう少し図の形や条件が違ってくるとは思います。しかし、本質は同じであり、これが「ひらめき」の正体のひとつなのです。

ということで、今回のご質問にあるように「第一印象でひらめかないと迷い込んでしまう」、あるいは「受験用の過去問に苦手意識がある」というのは、問題演習の不足に原因がある可能性が高いかもしれません。入試問題を含む問題の演習量を増やすことで、いずれも解決すると思われます。また、「難問が解けるのに、計算などの基本的ミスが目立つ時」があるのは、難しい問題の解法が浮かんで早く解こうと、つい焦ってしまう結果であるとも考えられます。これも演習を重ねて問題慣れすることで、ケアレスミスを最小限に抑えることができるようになるでしょう。かつて慶應義塾の塾長であった小泉信三が遺した言葉に「練習ハ不可能ヲ可能ニス」というものがあったと記憶しますが、算数や数学は本当にその言葉が似合う教科だと思います。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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