分数が苦手です。どんなふうに教えたらわかるのでしょうか[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小4男子(性格:感情的なタイプ)のお母さま


質問

分数が苦手です。どれだけ少なくても多くても、それを1として、その1/2とか3/4とかの概念がまだわからない様子です。絵で表しても、その時は「そうか」とわかったようですが、自分で考えることがまだできていません。どんなふうに教えたらわかるのでしょうか。


小泉先生のアドバイス

生活の一場面をとらえて、分数で考える瞬間を作ってあげる。

分数は、初めて学ぶ子どもたちにとっては不思議な世界であり、特に、基準となるものによって同じ1/2でも数量が違う点などがわかりにくい場合があります。また、おはじき100個の1/2などはすんなりわかるでしょうが、「3本のようかんを5人で分けると、1人何本」などという問題になると、「?」ということになります。よくわからない子どもたちには、問題を何問も解かせたり、何回も説明したりすることが大切です。しかも、子どもによって「わかった!」と《腑に落ちる》ポイントがさまざまですから、そのお子さまにあったものをいろいろ試す必要があると思います。

さて、わたし自身の経験からすると、分数が本当に腑に落ちた瞬間は算数の授業ではなく、どうも給食の時間だったような記憶があります。何年生の時だったかはっきりしませんが、分数についてはすでに習っていたことは確かです。

その当時の給食は今のものに比べて、かなり質素だったと思いますが、時々、ビンで牛乳が出ました。通常は脱脂粉乳のミルクでしたから、牛乳の時はみんな大喜びです。その日も牛乳が出て、しかもなぜか2本余りました。こんな場合は、希望者が貰えることになっていて、希望者が多い場合はジャンケンで決めることになっていました。人気のある牛乳ということで、わたしを含めて希望者が数名手を挙げました。いつも通り、ジャンケンかと思いきや、先生は「3人で2本の牛乳を分けた時、1人何本もらえるか?」という問題を出しました。この問題を早く解けた人から順番に牛乳がもらえる、というものでした。

早速、自信ありげな生徒が2人ほど先生のところにかけより、ほかの生徒に聞こえないように耳元で答えを言います。残念ながら、正解ではなかったようです。わたしは3番目でしたから、前の2人の答えが正解で牛乳がなくなってしまうのではないか、自分の答えが果たして正しいのか、などとドキドキしていた記憶があります。
その当時のわたしは、算数は得意な科目だったように記憶しています。試験での分数の計算や文章題などでもあまり困った覚えはありませんでした。しかし、牛乳という賞品付きの、しかも皆の前で正解・不正解がわかってしまうような問題にトライすることは、ペーパー上のテストでは味わうことができないドキドキ感がありました。やがてわたしの番になり、先生の耳元で自分の答えを「2/3本」と答えました。先生は満足げにうなずいて、2本のうちの1本の牛乳をわたしにくれました。残りの1本がどうなったか、まったく憶えていませんが、自分が正解だったことの誇らしさは、今でもよみがえります。そして、分数の正体をリアルな感覚でつかめたのは、まさにその瞬間だったと思います。紙面上で理解していたのとはまた別の、実感として分数を理解できた瞬間だったのでしょう。

このようなクイズによる牛乳の分配方法は、今となってはひんしゅくものであるかもしれません。しかし、算数が現実の生活で生きる瞬間を体験させることは、それが《原理原則》であればあるほど理解が深くなると思います。お子さまも生活の一場面をとらえて、分数で考える瞬間を作ってあげると、ペーパーとはまた異なった理解を得られる可能性があると思います。目で見て、手で触れて体験することが、いかに深い理解を生むかということなのです。



プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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