時間配分がうまくいかないことが多い[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答します。




質問者

小6女子のお母さま


質問

過去問演習では、時間配分(問題の取捨選択)がうまくいかないことが多いようです。問題の読み間違いや計算ミスなどによる惜しい減点もちょこちょこあります。


小泉先生のアドバイス

自分をコントロールする術を鍛える

「時間配分がうまくいかない」という思いは、「解ける問題をやり残した」とか「難しくて解けない問題を深追いした」時に感じることが多いと思います。ここでは、これらのことがなぜ起きるのか、そして、それらを乗りこえるためにはどうしたら良いかを考えていきます。

まず、「解ける問題をやり残した」についてですが、これは「手をつける時間がなかった」場合と、「試験の時には解法の糸口が見つからなかったのに、終わって解いてみたら解けた」場合の二つに分類できます。前者の場合はあとでお話しすることとして、ここでは後者について説明します。
「試験の時には解けない」というのは、学力の問題というよりも≪気持ちの問題≫に原因がある場合が少なくありません。たとえば、自分の志望校の問題は難しいはずだから、自分に解けるはずがないと、少し考えただけで解くことを放棄してしまうようなケースです。試験のあとでは解けるということは学力的には問題ないわけですから、これらの生徒さんは自信をつけることでこのような弱点を克服していけます。
その方法としては、できなかった問題をしっかり復習して、その学校の問題のレベルを実感することです。難しそうに見えてもなんとか解けることがわかれば、途中であきらめずに正解にたどりつけるようになります。「自分ならこの程度の問題は解けるはずだ!」と思いながら問題を解くのと、「自分に解けるのか?」と不安な思いで解くのでは、正答率は大きく違ってくるものです。こういった自信は、過去問演習においてしっかりと復習することで培っていけます。

次は、「難しくて解けない問題を深追いした」について考えます。強気タイプの生徒さんは特に、なんとか解いてやろうとして難問を深追いしがちです。「これだけ時間をかけたのだから」とさらに深追いしてしまうものですが、ここで大切なことは、自分をコントロールする術を持つことです。難しい問題を深追いするかどうかは、よく道に迷った時の決断に例えられます。「先に進むか?」、あるいは「もと来た道を戻るか?」という決断です。せっかくここまで来たのだから、先に進みたくなるのが人情ですが、多くの場合は勇気を持って≪撤退≫するほうが好ましい結果を生むようです。試験の時も同じで、一度手を付けた問題でもある程度考えて答えが出ないようでしたら、その問題を後回しにする勇気を持つべきでしょう。
自分をコントロールするというのは、「試験問題を解く自分」と、そんな自分を「落ち着かせる自分」を持つということです。あるいは、試験時間が残り少なくなった時、「もうだめだとあきらめかけている自分」を「叱咤(しった)激励するもう一人の自分」を持つことです。模擬試験や過去問演習など多くの試験問題をこなすことで、こうした感覚は培われていきます。

自分をコントロールする術は、志望校の出題傾向のクセを熟知して、試験問題を俯瞰(ふかん)的に見られるようになることでも培うことができます。出題傾向のクセとは、「全体の大問数は全部で5題」とか、「大問3は必ず平面図形が出題される」などの傾向です。あるいは、「最後の大問5のうちの小問(1)は比較的やさしいので、必ず手を付けて5点とるべきだが、残りの(2)(3)は難問なので手を付けないほうが良いかもしれない」などです。これらの傾向は各学校によって異なりますから、過去問演習を重ねて、身体で覚えていく必要があります。そして、このような経験を積んでくると、どのあたりでしっかり得点すれば良いかがわかってきます。問題を解くペースもつかめてきますから、順調に解いているのか、あるいはもう少しペースを上げるべきかなどの判断もできるようになります。そして、これだけ試験問題を俯瞰的に見ることができれば、自信を持って問題を解けますから、「自分をコントロールする」ことも容易になるのです。

自分をコントロールできるようになると、難問を深追いすることなく、解ける問題で確実に点数をかせげるようになります。気持ちにも余裕ができますから、いままで犯していた問題の読み間違いや計算ミスなども減ってくるでしょう。また、先にお話しした「手をつける時間がなかった」問題も少なくなると思います。これらのことを弱点補強も合わせて実施できれば、最初は40%だった試験の得点率が、50%、60%と上昇し、ついにはその年の合格者最低点(得点率)を超えていくでしょう。

「本番に強い」とか、「試験度胸がある」などと言われる生徒は、自分をコントロールできている場合が多いと思います。試験が終わって解答解説を読み、簡単な問題をとりこぼしたことがわかった時は悔しいものです。まして、本番の試験でそんなことをやってしまったら、なんのために苦労して日々の演習をくり返してきたかわからなくなります。「できる問題は逃さない」「できない問題は深追いしない」という当たり前のことを着実にやれるようになるためにも、過去問演習で自分をコントロールする術を鍛えていきましょう。


プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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