渋谷教育学園渋谷中学校1年生 Kさんのお母さま

■入学したい気持ちは強いのに、思うように伸びない成績との葛藤(かっとう)。個別指導の塾への転塾。精神的に苦しい中で、最後の最後まで粘って合格を勝ち取った。

Kさんの受験までの経緯を教えてください。

上の2人が同じ学校で、しかも2人とも剣道部でがんばっている。家の中でもなにかと学校の話で盛り上がっていることが多いので、Kも自然と兄と同じ学校に行きたいと言いだしました。でも、その頃には渋渋も難関校になっていましたから、正直どうだろうと思いましたが、とにかく準備をすることにして、5年生の4月から近所の中規模塾に通い始めました。

最初は良かったのですが、だんだんうまくいかなくなってしまいました。どうやら一斉授業のペースと合わないようなのです。また、その塾は四谷大塚のウィークリーテストを利用していたのですが、毎週のテストに振り回されてしまうようになりました。今になって思えば、これは私の作戦ミスで、5年生の段階ではウィークリーテストの結果にとらわれずに、基本的な問題を徹底してやったほうがよかったのですが、そのときはわかりませんでした。
当時は私も仕事が忙しく、学校から帰ったら一人で塾に行かせていたのですが、5年生の冬頃には「おなかが痛くて行けない」という電話が入るようになりました。その前から、塾に行く途中でおなかが痛くなってコンビニのトイレにかけ込み、遅刻することもたびたびあったようです。遅刻すると怒られる、休むとますます授業についていけないという悪循環に陥ってしまいました。
何度か塾の先生とも話し合いをしましたが、状況が好転しないまま、2月から6年生のカリキュラムが始まりました。たまたま剣道の練習日と塾の日が重なってしまい、本人も剣道をやめたくないので、塾内の個別指導を利用して、その穴を埋めることにしました。しかし、これもうまくいきませんでした。

私は、本人がつらそうなので受験をやめさせようと思ったのですが、本人はどうしても渋渋に行きたいから、受験をやめるとは言わない。そこで、室長先生に面談を申し入れました。特に算数でお手上げの問題が目立ったので、そこを解明したかったのですが、塾からは「渋渋は無理だと思う」という返事だけでした。しかも「Kくんのように興味をもったり、発言が多いのはいいことで、中学に入ったらそういうお子さんは伸びるだろうけれど、受験向きではない。Kくんがこだわって質問することで、授業の妨げになっている」とおっしゃるのです。私としては、本人のモチベーションは高いし、渋渋は入試の傾向もはっきりとしているので、最後はその対策をやればなんとかなるのではと思っていたのですが、個別の対応は無理だということでした。このまま続けていても合格は無理だろうなと思ったのですが、夫は「これで受験をやめたら、本人は受けさせてももらえなかったと思うだろうから、受けるだけは受けさせて、落ちたら公立に行けばいいじゃないか」と言うので、私も腹をくくって受験をさせることにしました。それが6年生の春期講習中のことです。


それからは、どのように対応されたのですか?

その数日後、たまたま入ったチラシが目に留まりました。「苦手・得意を考慮し、一人ひとりの個性に合わせたきめ細かなオリジナルカリキュラムを作成。一人ひとりの可能性を開く」と書いてあったのです。これだ!と思いメールを送りました。
すぐにお返事をいただいたので現状と希望をお話しし「今の実力では無理だとわかっているが、やり方によって可能性があるのか、現実的にこの子の能力では無理なのか、プロとして判断していただきたい」とお願いしました。「一度お子さんを連れてきてください」ということになり、1日塾を休ませて連れて行きました。算数と理科の学力テストを受けた結果、「Kくんは頭いいですよ」とおっしゃるのです。「算数ができないのは、原理原則を理解しないまま公式を覚えて演習だけをしていたからです。思考力はあるので、伸びると思います。原理原則から理解させていきますから、夏まではちょっと立ち止まったようになると思いますが、それでもよかったらお任せください」と。
私としてはそれは願ってもないことで、今の状態は受験勉強のいちばん悪い弊害が出てしまっていると思っていたので、お任せしたいと思いました。本人も久しぶりに問題を解く喜びを感じられたようで、久しぶりにいきいきとしていました。費用はかなりかかるので、覚悟が要りましたが、夫と相談して転塾をすることにしました。


転塾してからは、変化はありましたか?

転塾に際して、それまで通っていた塾の塾長先生が息子に「与えられたことだけやっていてもだめなんだ。自分で考えてやらなければ、塾だけ変わっても同じだよ」とおっしゃったのです。私もそのとおりだと思いました。本当にどうしても合格したいと思うのなら、言いわけをしないでやればいいのですから。本人の自覚の甘さもあるということを、そのときに言い聞かせました。それからは、人が変わったようにがんばり始めました。

新しい塾では、どこでつまずいているかをじっくりと見てくださり、確実にできるようにしてくれました。本人もわかることが楽しくて、学ぶ意欲が出てきたのはとても良かったです。
剣道は9月まで続けましたが、それ以外の日はほぼ毎日、塾に行って勉強をしていました。最初はKが自分でお弁当のごはんを詰めて持って行っていたのですが、毎日のことなので、私も6月で仕事を辞めました。これで最後の受験ですし、今は子どものことを優先してやりたいと思ったからです。それからは途中でおなかが痛くなることもなくなって、精神的にも安定しました。必ず迎えに行くようにしていたのですが、その10分くらいの帰り道に2人でいろいろ話すのが良かったみたいです。


プロフィール



教育ジャーナリスト、「登録スタッフ制企画編集会社<ワイワイネット>」代表。塾取材や学校長インタビュー経験が豊富。近著に『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)。

子育て・教育Q&A