「学校に行っていない僕は大人になれないんだ」長男の言葉に絶句。親子の《とまり木》を作ると決心した7児の母

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小・中学校における児童生徒数が約30万人に上る今、お子さまの不登校や行きしぶりに悩む保護者のかたも増えています。
「NPO法人多様な学びプロジェクト」代表の生駒知里さんも、お子さまの不登校に悩み続けた一人。
生駒さんはお子さまに寄り添う生活の中で、ある思いに至り、同NPO法人を設立しました。
現在は学校以外で学ぶ子どもや家族を支える活動に従事する生駒さんに、これまでのライフストーリーや現在の思いを伺いました。

※文部科学省(2023)「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」より
https://www.mext.go.jp/content/20231004-mxt_jidou01-100002753_1.pdf

この記事のポイント

長男が小学1年生で不登校に


※写真はイメージです

生駒さんの長男が「学校ってやめられないのかな」と初めて口にしたのは、小学1年生の夏休み明けだったそうです。

「当時の私は、そもそも学校に通うのは当たり前だと考えていたので、やめるやめないと考えるところではないでしょうと、その言葉を軽く受け流していました。でも長男は、数週間後に『半年通ってみて学校はどんなところかわかった。自分には合わないからやめる』と改めて宣言してきたのです。私と夫にとって、まさに青天の霹靂(へきれき)でした」

学校の先生に相談したところ、「学校では楽しく過ごしていますよ」と言われたので、なんとか説得して学校に連れ出したことも。しかし、ある出来事をきっかけに登校するよう説得するのをやめたそうです。

学校から帰宅した長男が、包丁をキッチンから持ってきて『僕を刺して』と言うのです。7歳の子どもにそんな言葉を言わせてしまったのがショックでした。命より大切なものはないので、ここまで追いつめられている子どもに登校を強要することはできませんでした」

生駒さんの長男はなぜ、「学校は自分には合わない」と感じたのでしょうか。

「長男が言うには、学ぶ内容を自分で決められないことや、さらに深掘りして学びたいときに授業が細切れで別の勉強をしなければならないことがつらかったようです。私から先生に相談もしてみたのですが、一人の児童の希望に合わせて授業内容をガラッと変えるのは難しい。かと言って、長男も自分の興味がはっきりしていて、折り合いをつけるのが難しいようでした。そこで、不安はもちろん大きかったですし、ほとんどの知人には反対されましたが、『ママが先生になるから、おうち学校でやっていこう』と伝えました」

「不登校で悩む家族は自分たちだけではない」と気付く

こうして長男が自宅で学ぶのを見守るようになった生駒さん。

「鉱石について自分なりに調べたり、生活の場にある身近なものを使って物理の実験をしたりして、興味のあることをとことん追求して学んでいました。でも、楽しそうに学んでいたはずの長男からある日、『学校に行っていない僕は、脳が退化して大人になれないんだよ』と言われた時は驚きました。面と向かって他人から言われることはなくても、不登校に対する周りの厳しい視線を敏感に感じているんだな、とショックでした」

その後、二度「学校に戻りたい」と意欲を見せた生駒さんの長男ですが、実際に登校してみると、やはり授業スタイルになじむのが難しく、生駒さんと一緒に「おうち学校」を継続することに。
生駒さん自身にとってもつらい時期が続き、一時は布団から起き上がれなくなるほど気分が落ち込んだことも。
それでも、なんとか二人で学びのスタイルを確立することができました。

「ただ、長男の『僕は大人になれない』という言葉は忘れることができませんでした。さらに、周りのママ友からも『子どもが小学校に入ってすぐ不登校になった』といった話を聞くようになり、私たち家族と同じように悩んでいる人はたくさんいるんだ、と実感したのです。何か自分にできることはないか、と模索するようになったのはそのころからでした」

SNSでの呼びかけをきっかけに「多様な学びプロジェクト」を立ち上げる

そして生駒さんが行動を起こしたのが2017年、長男が10歳になったころでした。

学校以外で学んでいる子どもや家族が安心して過ごせる場をつくれるよう、何かやってみたいと強く感じました。長男に話してみたら、『僕もできることは手伝うから、やってみようよ』と背中を押してくれたんです。その言葉に励まされてSNSで自分の思いを発信したところ、本当にたくさんのかたが協力を申し出てくださって、まずは集まってくれたメンバーと会議をするところから活動を始めました。長男も何回か会議に参加してくれました」

長男に励まされて最初のアクションを起こした生駒さん。その思いが多くの人に届き、活動は大きな広がりを見せることになったのです。

多様な活動で認知度が高まる

生駒さんが協力メンバーと共にまず手がけたのは、学校外で学ぶ子どもたちが気軽に立ち寄れる場所「街のとまり木」づくりでした。
また、協力者を募って「街の先生」になってもらい、子どもたちに多様な学びを提供する活動も開始。

「ただ、利用者の声を聞いてみると、『まだ人に会うのが怖いからリアルな場に出かけるのが難しい』『とまり木が遠方で子どもを連れていけない』という声も。場所を提供してくれるかたからも、運営に関する相談が寄せられるようになり、やり方を見直す必要性を感じました。そこで、試しにオンラインで講座を行ったところ反響が大きく、子どもたちが交流できるサロンと、保護者や支援者を対象とした大人が交流できるサロンと講座をつくることにしました」

間もなくコロナ禍になり、オンラインミーティングが浸透し始めたことも影響して、生駒さんらの活動はメディアでたびたび取り上げられ、入会者数も急増。2022年には、生駒さんが代表理事となり「NPO法人多様な学びプロジェクト」の設立に至りました。
現在、「多様な学びプロジェクト」では、次のような活動を展開しています。

●とまり木オンラインサロン

多様な学びに興味のある保護者や教育関係者に開かれた、オンラインをベースとするコミュニティー。
保護者や支援者のかたは、交流会で悩みを共有したり、講座で子どもの学びに役立つ情報をキャッチしたりできます。

とまり木オンラインサロン

●学校への依頼文フォーマット

「学校への依頼文」フォーマットを公開します|多様な学びプロジェクト より

不登校のお子さまがいるご家庭では、出欠連絡をはじめ学校との連絡でお困りのケースが多く見られます。
そこで2022年に、保護者のかた約630名の声をもとに、学校と家庭とのスムーズなコミュニケーションに役立つ書き込み式シートをとまり木オンラインサロンメンバーの自主企画で作成。誰でも自由にダウンロードして利用できます。

●子ども向けオンライン活動

子どもたちが交流できるオンラインコミュニティーや、多彩なテーマで話し合う「こども哲学カフェオンライン」などを定期開催。
フリーバードキッズオンラインサロン

●当事者実態ニーズ全国調査

不登校の子どもたちや家庭のニーズを調査し、政策提言等につなげていく活動を主催しています。
実態ニーズ報告シンポジウム | 多様な学びプロジェクト

「活動する中で、子どもたちに寄り添う保護者・支援者の方々も、悩みを共有できる場や学びの機会を強く求めていることを改めて実感しています。だからこそ、当事者のニーズや生の声を発信し、社会課題の上流から変えられるよう、政策への提言や調査活動に今、力を入れています。関わってくれるメンバーも、自分たちの活動が同じ悩みを抱える人の力になれるかもしれない、と非常にエンパワーメントされているようです」

活動の中でわかってきた不登校の子どもたちの心

「多様な学びプロジェクト」を通じて、学校外で学ぶたくさんの子どもたちと接してきた生駒さん。
その中では、たくさんの気付きがあったそうです。

「自分の言葉や意見をしっかり持っている子がとても多いな、と感じます。だからこそ、『みんながやっているから』『学校で決められていることだから』といった理由に流されることなく行動し、納得して前進しようとするのかもしれません。その意味で、たくさんの可能性を秘めていると感じますね」

また、「自分は学校に行けない」ということで自分を激しく責め、傷ついている子どもがたくさんいることも再認識したそうです。

「1日中ゲームをしたり、動画を見たりして過ごすお子さまがとても多く、保護者のかたからは心配する声もいただきます。でも傷付いている子どもにとって、ゲームや動画に没頭する間は、自分を責めずにいられる時間なんです。不登校の問題に詳しい心理カウンセラーの内田良子さんは講演会などで、『不登校の子どもにとってゲームは命の浮き輪』とおっしゃっているほどです。」

生駒さんが不登校経験者から聞いたところでは、不登校初期には、予想外の展開が起きるゲームは怖いから同じゲームしかできない時期もあったそうです。

少しずつ心の傷が癒えれば、他のゲームをしたり、家族と雑談したりと、徐々に多様な行動ができるようになっていきます」

ただ、「傷が癒えるには時間がかかることは知ってもらいたい」と生駒さんは言います。

「保護者のかたに聞くと、『1年くらいゲームばかりしていた』という声もあります。それほどの長期間、お子さまに寄り添い続けるのは保護者のかたもつらいと思うので、悩みを分かち合える仲間を見つけられるとよいですね。私たちの活動に参加していただいてもよいし、とまり木サイトで不登校のお子さまを持つ保護者の会を探すのも一つの方法だと思います」

まとめ & 実践 TIPS

生駒さんは長男とのやりとりを振り返って、「子どもには生きる力があるし、『自分の人生をよりよくしたい』という思いも持っている」と実感したそうです。
ただ、「保護者が学校外で育つ子どもと接する中で、子どもの力や思いが信じられなくなる時もくるかもしれない」とも語ります。
そんな時のために、「悩みを聞いてくれる仲間や味方をたくさんつくってほしい」とのこと。
取材の最後に、「私自身もそうでしたが、子どもの不登校で悩んでいる人はたくさんいることを忘れずにいてほしいです」とメッセージをくださった生駒さん。
悩み苦しんだからこその力強い活動が今、多くの人の支えになっています。

プロフィール


生駒知里

「川崎市子ども夢パーク」のオープニングスタッフとして活動後、子育て中の母親が同じテーマで話し合ったり専門家の意見を聞いたりできる「ママカフェ」や「橘自主保育のびのびーの」の立ち上げ、運営に携わる。2歳から高校2年生まで7児の母。

多様な学びプロジェクト
https://www.tayounamanabi.com/

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