50万人以上のビッグデータで、学習の「苦手」を予防する!

今回は、「勉強が続く! わかる! 『ビッグデータ』時代の家庭学習」の連載の第3回。
タブレットやスマートフォンを使った学習が広がっています。そうした学習では、大量の学習記録データが蓄積されます。そこで得られた正誤の記録からは、正解率が低い問題がわかります。さらに分析を深めると、Aが不正解だとBも不正解になりやすいといった、問題と問題の関係を明らかにできます。このような問題分析を50万人以上のビッグデータを使って行い、学習の「苦手」を予防する教材の研究が進められています。

このテーマに取り組む、ベネッセコーポレーション商品基盤本部・分析センターの鈴木祥弘に話を聞きました。

Q.なぜ「苦手」を予防するために「ビッグデータ」を活用しようと考えたのでしょうか?
—勉強をしていると、解けない問題に出あうことがありますよね。その「解けない」を放置すると、先の問題も解けなくなり、苦手意識が生まれます。例えば、多くの子どもが小学5年生のときに算数の「割合」につまずきますが、そのままにすると中学の数学で「割合」を多く使うような「連立方程式」も理解できなくなる。学習教材を作っていて、そうした苦手の連鎖を生まないためにどうしたらよいかを常に考えていました。

—そんなとき、「ビッグデータ」を使えば、具体的な数値で「苦手」が解明できるのではないかと感じました。「進研ゼミ」には、デジタル教材(チャレンジタッチや「進研ゼミ」ハイブリッドスタイル)で学習する50万人以上の学習記録データがあります。そこからは、ある問題のまちがいがどの問題と関連しているのかがわかります。その結果を使って学習のステップを組み立てることで、苦手を予防できるのではないかと考えたわけです。

Q.どのような方法で子どもたちの「苦手」を解明したのでしょうか?
—いくつかの方法を検討したうえで、私は「アソシエーション分析」を利用しました。これは、たくさんある要素間の関係を明らかにする手法で、身近なところでも活用されています。例えば、スーパーやコンビニには、たくさんの商品があります。その売上データからは、「パンを買った人」が「ペットボトルのお茶を買う確率は30%」「缶コーヒーを買う確率は25%」という具合に、商品間の関係が見えます。お店では、この結果を活用して、パンの近くに飲み物を配置するといった工夫を考えます。このように、確率から要素と要素の関係を見つける方法の1つが「アソシエーション分析」です。

—この手法を使って、たくさんの問題のなかから、Aが不正解だとBが不正解になる確率が高いといった関係を明らかにしました。図1は、私が実際に行った分析のシートですが、問題がネットワークのように結びついていることがわかります。こうして問題の関連がわかると、ある問題でまちがえたときにどこにさかのぼればよいかがつかみやすくなります。

Q.問題の関連性がわかると、どのようなメリットがありますか?
—もう少しわかりやすく説明するために、小学5年生の算数を事例にしてみましょう。図2は、図1の分析結果から一部を抜粋して図式化したものです。これを見ると、AやHの問題に矢印が集まっていることがわかります。矢印は問題のつながり、線の太さは、関係の強さを意味します。

—Aは「わられる数とわる数がともに小数で、かつ、あまりが小数になる」という問題でした。日常の生活では、あまりが小数になることはないので、小学生には難問です。この問題は、たくさんの問題群のなかでも、特にDやEと関連が強いことが示されています。Aが解けるようになるためには、DやEの問題を解けるようになることが必要ということです。こうすることで、苦手な問題を解けるようになるための学習のステップが可視化できます。

—アソシエーション分析の他にも、学習者が問題を解き直ししたか、解くのにかかった時間はどれくらいかなどの結果も検討しました。分析を積み上げることで、次のような成果がありました。

(1)今までの指導が科学的に検証できた
「ビッグデータ分析」以前から、「進研ゼミ」には問題の系統をまとめた「学習ルートマップ」というデータベースがありました。これは、長年にわたり、教材編集者などの経験や知識、教科・教育の専門家などの助言をもとにして問題の体系を整理した仮説です。「ビッグデータ」で子どもたちの学習記録を解析した結果は、ほとんどこの仮説と一致していました。今までの教材づくりや学習指導の基本的な考え方はまちがっていないことが、科学的に検証できました。

(2)指導に役立つ新しい発見がたくさんあった
ある問題が解けるようになるためには、まずはこちらの問題に取り組むのがよいといった「問題配列」の発見がたくさんありました。また、正解率を決めるのは内容の難しさだけでなく,「問題文のちょっとした表現の違い」や「穴埋め問題における穴埋め箇所の位置」などが影響していることもわかりました。こうした具体的な発見は、教材づくりや学習指導に役立てています。

(3)一人ひとりの苦手にあったレベルアップ指導が可能に
解答に応じて,その子が次にやるとよい問題を出題する方法も研究しています。これが実現すれば、それぞれが目標を達成するために、最適な教材が提供できるようになると考えています。同じ志望校を目標にしていても、苦手が違えば、取り組む問題の内容や量は異なります。ビッグデータの分析からは、そうした一人ひとりの苦手に合った教材の見通しが得られました。

Q.分析するうえで気をつけていることはありますか?
—問題どうしの関係を見るために、組み合わせる数は膨大です。やみくもに分析していては意味のある発見をすることは難しいでしょう。分析を効果的に行うには、「着眼点」が大切であるといわれています。「この問題とこの問題は関係が強そうだ」というような学びに関する「仮説」をたくさんもっていること、また仮説自体が質のよいものであることが重要です。 
-アソシエーション分析の結果は、今までの理論や知見と大きく異なることはない、というのが全体の印象です。それは当然で、長い間、専門家が研究してきた成果と異なる結果が頻繁に出るようであれば、分析そのものがおかしいことになります。しかし、問題間の正誤確率からは、そのなかでもより重要なポイントが数値でわかります。それを教材に反映できるようになるのはメリットです。
—さらに、「問題配列」のような問題ごとの発見はたくさんあり、これはビッグデータ分析ならではの成果です。また、ときとして意外な発見もあります。従来の知見からは関連がなさそうに見える問題の関連がデータで示されたとき、その背後にどのような共通性があるのか。そうした新しい発見について検討することも、教材を良くしていくうえでは欠かせないと考えています。

「ビッグデータ」の活用により、子どもの苦手を予防する教材が開発されつつあります。次回は、その具体的な取り組みを紹介します。
(文・沓澤糸)

プロフィール

鈴木祥弘

鈴木祥弘

ベネッセコーポレーション商品基盤本部・分析センター
学習データアナリスト
ベネッセコーポレーション入社後,進研ゼミの教材編集,ベネッセグループ個別指導塾で指導設計責任者を経て,進研ゼミのタブレット学習の新講座開発を担当。現在は,よりわかりやすい指導法やカリキュラムを発見するために,新設された分析センターで学習データアナリストとして従事。

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