第6回 成績アップに必要な学習行動を「確率」から導く!?
「勉強が続く! わかる! 『ビッグデータ』時代の家庭学習」の連載も、第6回を迎えました。今回のテーマは、ズバリ「テストの得点アップ」です。テストでよい点をとりたいというのは、誰しもが思うこと。それでは、成績優秀者は、実際にどのような学習をしているのでしょうか。デジタル教材の学習記録を分析すると、どんな学習行動(=原因)がテストの得点(=結果)と結びついているのか(因果関係)が見えてきます。
ベネッセコーポレーションでは、進研ゼミの学習記録をもとに「ベイジアンネットワーク」という分析モデルを用いて、その因果関係を明らかにする取り組みを行っています。今回は、分析結果が子どもの学習にどう役立つのかについて、ゼミカンパニー・分析センターの山本るり子に話を聞きました。
Q.「テストの得点」と「学習行動」の関連を分析しようと思ったのはなぜですか?
-私たちは、「成績を上げたい」という子どもたちの気持ちに応えられるように、今までもさまざまな学習方法を提案してきました。教材の中にも、できるだけ楽しく学習が続けられる工夫を盛り込んでいます。しかし、そうした働きかけは、どこまで理にかなったものなのか。それを確かめてみたいという気持ちがありましたし、もっと良い学習方法がないのかを追求したいという思いもありました。
-進研ゼミには、デジタル教材を利用してくれた多くの子どもたちの学習記録データがあります。これを活用すれば、どのような学習がテストの成績を高めているのかを推論することができます。そこで、人工知能の領域にも応用されている「ベイジアンネットワーク」という分析モデルを使って、「テストの得点」と「学習行動」の関連を分析してみることにしました。成績アップに効果的な学習行動が見つかれば、それを一人ひとりに対する働きかけや教材づくりに生かせるのではないかと考えたわけです。
Q.「ベイジアンネットワーク」とは、どのような分析ですか?
-一般的にはまだ聞き慣れないかもしれませんが、何かが起こる可能性を確率的に予測する分析モデルとして活用されています。例えば、ある病気になった人、ならなかった人の複数の生活行動(喫煙、飲酒、睡眠不足など)のデータがあったとします。これを「ベイジアンネットワーク」でモデル化すると、それぞれの生活行動がどのような関係にあり、またどれくらいの確率で病気に影響するのかがわかります。すると、その病気にならないために毎日の生活でどんなことに気をつければよいのか、予防指導に生かすことができます。
-同様に、「テストの得点」とともに、日々の学習行動(学習日数・時間、学習内容、学習方法など)のデータがあれば、一定の成績(=合格点)をとるのにどのような行動が有効なのかが確率からわかります。例えば、学習日数が変わると合格点をとる確率はどれくらい変わるのか。内容Aを学習すると確率はどれくらい上がるか、といった具合です。しかし、実際には、それぞれの学習行動に複雑な関係があります。その関係を図に表すと蜘蛛の巣のようなネットワークに見えます。
Q.分析した結果からどのようなことがわかったのでしょうか?
-図1は、私たちが分析したベイジアンネットワークをイメージで示したものです。ここでは仮に、学期の終わりに実施した「診断テスト」に一定の合格ラインを設けて、その点数に達するかどうかにどのような学習行動が関わっているのかを検討してみました。
-これを見ると、「診断テスト合格」に向けていくつかの矢印が集まっています。具体的には、「基礎問題完了率」「応用問題完了率」「教材内問題正答率」から矢印が出ていますね。これは、基礎問題や応用問題をどこまでやるか、教材内の問題の正答率がどの程度かということが、「診断テスト合格」の確率に直接影響を与えていることを示しています。その状況によって、合格の確率を予測することができます。
-また、「基礎問題完了率」には「学習日数」から矢印が出ており、問題をやりきるには一定の学習日数が必要なことがわかります。それから、「教材内問題正答率」には「誤答解き直し率」から矢印が出ていて、まちがえた問題をやり直すことが教材の中の問題の正答率を左右するといったこともわかります。そして、こうした学習行動は相互に関連し、最終的に「診断テスト合格」の確率を決めています。
Q.このような分析は、どのようなことに役に立ちますか?
-紹介したのは分析のほんの一例です。多様な学習記録を組み合わせることで、テストの得点を上げるのに有効な行動がより詳細にわかってきます。それによって、子どもたちに学習をうながす際に、裏づけと自信をもって伝えられます。学習行動のプロセスや学習内容の順番を、分析の結果に基づいて配置するといったことも可能になるでしょう。
-少し先の将来には、例えば「○○高校合格」のような目標について、それに影響を与える要因を構造化するといったことができるかもしれません。それが実現したら、一人ひとりの学習状況から、その時点の目標達成(合格)の確率を導き出したり、確率を高める行動を提案したりすることができます。教材のデジタル化によってビッグデータが分析できるようになったのは、ほんの数年の動き。その短期間にも、多くの新しい発見がありました。これからも、データの活用によって、学習サービスはどんどん進化していくと思います。
-そして、そうしたサービスの改善が日々できるのは、たくさんの会員のかたがいるおかげです。50万人を超えるデジタル教材の会員がいるから、多くの学習に関するデータが得ることができます。最終的には、その一人ひとりをきめ細かくサポートするために、分析結果を生かしていきたいと考えています。
今回は、ベイジアンネットワークという分析モデルを使って、効果的な学習のあり方を検討している事例を取り上げました。大量のデータがあるからこそわかることやできることが、増えているようです。(文・沓澤糸)
●連載「勉強が続く! わかる! 『ビッグデータ』時代の家庭学習」
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