「ビッグデータ」は「一人ひとりにあった学習」を本当に可能にするのか?

今回は、「勉強が続く! わかる! 『ビッグデータ』時代の家庭学習」と題する連載の第2回。 
タブレットやスマートフォンを使った学習が広がっています。そうした学習では、大量の学習記録データが蓄積されます。そこで得られた「ビッグデータ」で、子どもの家庭学習はどのように変わるのでしょうか。
連載第1回では、「ビッグデータ」が教育に及ぼす影響を紹介しました。そのなかで、大きく二つの利点があることをお伝えしました。

教育に「ビッグデータ」を活用する利点

(1)「一人ひとりにあった学習(アダプティブ・ラーニング)」の提供が可能になる
(2)「つまずきやすいポイント」や「効果が上がる学習方法」が発見できる

第2回は(1)について、「一人ひとりにあった学習」をどう実現しているのか、ベネッセコーポレーション商品基盤本部・分析センターの國吉啓介に話を聞きました。

Q:学習に関する「ビッグデータ」を、どのように分析しているのですか?

—「進研ゼミ」には、デジタル教材(チャレンジタッチや「進研ゼミ」ハイブリッドスタイル)を使って学習する会員が50万人以上います(2016年4月時点)。こうした教材では、学習に取り組んだ日時、解答に要した時間、正誤などの学習記録が蓄積されていきます。私が所属する部門では、専門スタッフが、データから子どもたちの学習状況を分析しています。

—分析結果は、週ごと、月ごとにまとめて、教材制作や「赤ペン」指導の担当者とデータに基づく議論をしています。教材のどこが良くなかったのか、つまずきの原因は何か、学習についてのアドバイスがより良くできていたかなどを確認し、次の改善に役立てます。デジタル教材は、改善したら子どもたちの反応がすぐにわかります。このため、データを見ながら、計画(Plan)-実行(Do)-確認(See)のサイクルが早く回せるのが大きな利点。社内では、こういったデータ分析会を、毎週行っています。

Q.具体的にどのような分析結果が出たのでしょうか?

—たくさんありますが、例えば、教材のログインデータを分析することで学習者のタイプのようなものがわかります。教材の使い方は、子どもによってさまざま。毎日コツコツ学習する子もいれば、定期テスト前に集中的に学習する子どももいます。今までは、一人ひとりがどのように学習しているか詳しくわかりませんでしたが、ログインデータを見れば一目瞭然。

—図1に示したのは、クラスター分析という手法で子どもたちの学習の仕方をタイプ分けした結果です。中学1年生の1学期のデータでは、10タイプの学習者に分類できました(図は一部を省略)。例えば、「クラスター1」は毎日のように教材を活用している子ども、「クラスター2」は学期の途中で活用が上がる子ども、「クラスター3」は一定のペースの活用で安定している子ども、「クラスター4」は定期テストをきっかけに学習する子ども、「クラスター5」は活用が下がっていく子ども、「クラスター6」はずっと活用が低い子どもという具合です。

-この結果を使えば、それぞれのタイプに合わせた学習についてのアドバイスを、きめ細やかに行うことができます。

Q.学習についてのアドバイスの例を教えてください。

—子どものタイプによって、アドバイスの頻度や内容を変える必要があります。学習習慣が定着している「クラスター1」の子どもには、成果が上がっていることについてほめます。同時に、上手な学習の仕方を伝えることが重要です。

一方、学習習慣が定着していない「クラスター6」の子どもには、学習のきっかけやペースをつくってあげることが大切です。

—学期の途中で活用が下がる「クラスター5」の子どもには、活用が下がる前の段階で学習を促すことが必須。ただし、そのタイミングは学習者のタイプによって異なります。また、定期テスト前に集中して取り組む「クラスター4」のような子どもは、学習のきっかけになるようなイベントに反応しやすいという特徴もわかりました。このタイプの子どもたちには、学習への気持ちを最初に盛り上げるイベントが効果的です。

—実際には、ログインデータだけでなく、学習に対する意識や成績などのいくつかのデータを組み合わせて、さまざまに学習者のタイプ分けを行っています。

Q.「一人ひとりにあった学習」の提供で、一番大切なことは何でしょうか。

—今までも赤ペン先生の提出課題などで学習状況をとらえて、さまざまな取り組みを行ってきました。しかしそれは、子どもが課題を提出してくれたときなど、どうしても「点」での関わりになってしまう。長い間、子どもの学習状況を「線」で見守り、学習が滞ったときには励まし、がんばっているときにはほめるなどの細やかなサポートができたらと思っていました。「ビッグデータ」を活用すれば、それが実現できる感触を得ています。

—でも、単に大量のデータがあれば、それが実現できるわけではありません。データをどう読み取るか、分析結果をどう教材に反映させるかが大切です。例えば、正答率が低い問題に対して、私たちは問題そのものが悪い可能性を検討し、必要があれば改訂します。しかし、問題がよいものであれば、解けるようになるためにどのようなステップが必要かを考え、それを教材に反映させています。必要があれば、あえて正答率の低い問題を出して、まちがいから気づいてもらうように問題を作ることもあります。重要なのは、子どもの力が伸びる教材になっているかという視点です。

—今日お話ししたようなデジタルを活用する視点は、長年にわたって教材制作をしてきた経験や、いかに子どもたちの学習意欲を高めるかを研究してきた経験が生きています。分析結果がいかにすばらしくても、それを一人ひとりの子どもに生かしていかなければ意味がないと考えています。

今回は、子どものタイプを分類した働きかけの事例を紹介しました。データを活用すれば、さまざまな観点から学習者のタイプを分析することが可能です。
次回は、「つまずきやすいポイント」をビッグデータから分析している取り組みを紹介します。
(文・沓澤糸)

プロフィール


國吉啓介

ベネッセコーポレーション商品基盤本部・分析センター
学習データアナリスト
ベネッセコーポレーション入社後、進研ゼミの教材編集、デジタルサービス開発、アセスメント開発などを担当。現在、一人ひとりが自分にあった学びを通して成長できる、よりよいサービスをつくるべく、学習データから学びのセオリーの発見、解明に従事。

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