教員不足の現状は?その原因と解決策を元教諭が解説 教員不足の現状は?その原因と解決策を元教諭が解説

2023.8.25

教員不足の現状は?その原因と解決策を元教諭が解説

先生のなり手が少ない、先生の離職率が高まっているなど、教員不足に関する残念な報道を目にしますよね。実際の教員不足の状況と理由、改善のためのポイントを、2022年度まで小学校教諭として教壇に立ち、現在も、教育や教師の働き方に関する情報発信を行っているベネッセ総合教育研究所の庄子寛之が解説します。

教員不足の現状——どれくらい足りていない?

2021年に行った国の調査結果※1によると、公立の小・中・高校で、年度はじめに不足している先生の数は全国で約2,500人。学校数では約1,900校です。調査と現場の実態とでは計算の仕方が一部異なるため、本当に不足している人数はもっと多いとも考えられています。

別の調査結果※2では、2023年度初めの時点で、教員不足の状況が1年前より「悪化した」と答えた地域が4割を超えました。調査結果から分かる通り、学校では深刻な教員不足が続いている状況と言えます。実際、4月になっても担任の先生がおらず、専科や副校長などが学級担任を兼務している学校も少なくありません。

地域差はあるものの、とにかく人が足りない!が学校現場の実態なのです。

※1出典:「教師不足」に関する実態調査-文部科学省
※2出典:「教師不足」への対応等に係るアンケート調査結果-文部科学省

教員不足の原因は?

そもそも「教員が不足している」とは、国が学校規模などに応じて定めている教員数よりも、実際の人数が少ない状態のことです。主な理由は、教員を希望する人が減ったことや、団塊の世代が定年を迎えて退職者が大勢いること、特別なニーズや教育的な配慮が必要な子どもへのきめ細かな対応が重視され、児童・生徒1人あたりの教員数を増やすように求められていることなどが挙げられます。

以前は、教員になりたい人が大勢いました。そのため、学校で正規に採用されない人も多く、期限付きで採用される人(いわゆる「臨採」「臨時教員」)や、時間講師として働く人たちが、正規採用の教員が病気や産休・育休などで一時的に不足した場合を支えていました。しかし現在は、正規採用の教員だけではなく、非正規採用の先生の数も十分ではありません。先生を雇用する自治体の予算が限られており、いざというときのために多めに講師を雇用しておく余裕がないからです。常にギリギリの先生数しか確保できていないために、ある学校で急に教員が不足した場合でも、すぐに別の先生を補充できません。新たな人員を確保できるまでは、校内の他の先生がピンチヒッターを務めざるを得ないのです。

教員不足の影響は?

教員の数が不足していると、不足している分を学校内の別の先生が補うことになります。例えば小学校の担任にとって、図工や音楽などの時間は、専科の教員が授業をしてくれる貴重な空き時間です。「空き」といっても休憩するわけではなく、テストの丸付けや事務仕事などを行っているのが実状です。教員が不足していると、空き時間は担任不在のクラスの応援に回り、ほかの仕事をする時間がなくなってしまうのです。

中学校の場合は、受持ちの授業数が小学校ほど多くはありません。しかし、中学生は生徒指導に時間がかかる時期でもあり、部活動や進路の指導も加わります。空き時間が少ないことは小学校と同様です。

教員不足によって一人ひとりの負担が増えることで、子どもとのコミュニケーションや授業準備といった、本来時間を割くべき業務に使える時間が減ります。子どもと触れ合う時間が少ないと、信頼関係を築いたり、子どものささいな変化に気づきにくくなったりする懸念もあります。授業の準備に時間をかけられないと、授業の質が低くなり、子どもたちの学習に影響が出るかもしれません。さらに、業務時間が増えて教員自身の心身の状態が悪化したり、そうした業務環境が「ブラックだ」と報道されたりすれば、教員不足にますます拍車がかかってしまうでしょう。

教員不足の解消に向けて行われている取り組み

深刻な教員不足により教育の質が下がれば、影響を受けるのは子どもたちです。教員不足を深刻化させる悪循環は断ち切らないといけません。国や自治体も状況を改善するためにいくつもの手立てを講じています。

教員の働き方改革はその代表です。例えばワークシート印刷や授業準備などを行うスクール・サポート・スタッフは、国の事業として予算が付き、全国に配置されています。授業で使うプリントを大量にコピーしてとじる、教材をラミネート加工してマグネットを付ける、といった手間がかかる作業を手伝ってもらうことで、教員の負担軽減につなげることが狙いです。

また、2024年度からは、公立学校教員の採用試験が一か月前倒して行われることになりました。民間企業が早期に採用を終えていることを踏まえて、優秀な人材の確保には採用日程の前倒しが必要だと国が判断したためです。

自治体独自の取り組みとしては、免許は持っているが教職に就いていない「ペーパーティーチャー」向けのセミナーを開いたり、ハローワークを通じて教員を募集したり、初任者の給与をアップしたりするなど、さまざまな手段で教員数の確保に力を注いでいるようです。

学校単位では、行事を精選したり、校内での会議を減らしたりするといった業務負担を軽くする工夫もなされています。行事関連で言えば、運動会を丸1日ではなく半日に短縮したり、学芸会を学習発表会に替えたりすることで、事前準備の時間を減らす試みなどが挙げられます。

※参考:
「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について-文部科学省
スクール・サポートスタッフ活用事例集-東京都教育委員会
教員不足の解決策となるか 採用倍率増へ教育委員会の取り組み-NHK みんなでプラス

教員不足は、主に学校などが主体となって解決すべき問題ではありますが、教員自身にも意識できる点があります。教員自身が取り組めることや私自身がやってきたことは下記などがあげられます。参考にしてみてください。

・5時に帰ると決め、それに向けて業務を調整する
・授業のことは授業中に済ませる
(例:テストをしたら、終わった子からもってこさせて丸付けをする、ノートチェックは授業終了後に児童に並んでもらってハンコを押す、ノートへのコメントは自分がこだわっている授業だけ書く、など)

質は落とさず「増やす」「減らさない」両輪の工夫が不可欠~教員不足の解消に向けて

働き方改革と言っても、教育的に価値のある活動のカットや、教員がやりがいを感じている業務を減らすことは、教員不足を解消するための根本的な方法とは言えません。

新しい教員をより多く採用する「増やす」工夫と、現職の教員に働き続けてもらう「減らさない」工夫の両方を行い続けることが大切です。しかも、学校現場の教員数が維持・増加しても、やる気のない先生ばかりでは意味がありません。教員、ひいては教育の質を落とさない視点も重要です。

実際には巨額の予算が必要となり簡単にはいかない部分もあります。しかし、社会全体が「教員や教員を希望する人たちは、子どもたちの未来につながる存在。だから大切にしよう、応援しよう」とする雰囲気をもっと高めていくことはできそうです。そうした文化が、学校現場を活性化させたり、教員確保につながるお金を国が確保する動きを引き出したりすることにもつながるのではないでしょうか。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年8月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

しょうじひろゆき


ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター研究員

東京学芸大学大学院教育心理学部臨床心理学科修了。公立小学校教員を20年近く務めた後、現職。コロナ禍での全国一斉休校中では、これからの教育について考えるオンラインイベントを企画し、2000人近くの教育関係者を集めた。現在は学校や自治体を支援するために全国各地で教員研修や保護者向けセミナーを行い、教員の働き方改革やこれからの学校教育について発信を行っている。
著書:『子どもを伸びる「待ち上手」な親の習慣』(青春出版社)、『「子どもに任せる」がうまくいかないあなたへ』(明治図書出版)、『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』(明治図書出版)、『教師のためのライフハック大全』(明治図書出版)、『子どもがつながる!オンライン学級遊び』(学陽書房)

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