大学レポートの「コピペ」、その深刻な問題とは

東京大学の教養学部後期課程(3・4年生)において、学期末に提出された課題のあるレポートのうち、約75%がインターネット上の文章の引き写しだったとして、学部のホームページ(外部のPDFにリンク)で、大学側が学生に警告を発し、ちょっとした話題になりました。「今どきの学生は困ったものだ。でも、私たちの学生時代も友達にレポートを写させてもらったこともあるし……」などと、軽く考えていませんか? 実は、教育改革を進める現在の大学にとって、深刻な問題をはらんでいるようです。

同学部は「他人の文章の無断借用は剽窃(ひょうせつ)であり、その行為が学問倫理上許されないことは明らか」だとして、協力者も含めて不正を行った者は、その学期の全単位を無効にするという厳しい措置を取っているといいます。さすがに最高学府たる研究大学として、厳格な態度です。しかし、研究者養成を視野に入れていない大学にあっても、ことは重大です。
大卒や短大卒の保護者の方々にも、いわゆる「楽勝科目」を選んだり、代返を頼んだりした経験が少なからずあるのではないでしょうか。しかし、それは大学・短大に進学する人が少なく、日本の景気も好調だった時代の、牧歌的な話です。当時は、厳しい入試をくぐり抜けて大学に入学しただけで、潜在的な能力があると企業や社会では見なしてくれ、仕事につながる力は入社してからビシビシ鍛えようという風潮があったのも事実でしょう。だから学生は大学生活を満喫しつつ、必要な単位を取って卒業さえできれば何とかなるさ……、と考えがちになるのも無理はありませんでした。

しかし、今や大学と大学生は、入り口(入試)と出口(卒業)の双方に厳しい目が向けられています。いわゆる「大学全入時代」にあっては、たとえ難関大学であっても、少子化に合わせて定員を極端に絞りでもしない限り、相対的に門戸が広がることは否定できません。また、企業側も卒業生に「即戦力」を求めています。今こそ大学時代の学びが重要になっており、「単位積み上げ方式」で卒業できたとしても実力を証明してはくれません。
だからこそ中央教育審議会は、2012(平成24)年の答申(外部のPDFにリンク)で大学教育の「質的転換」を求め、カリキュラムの改善とともに「アクティブ・ラーニング」(AL、大学では「能動的学修」と翻訳)を採り入れて、学問だけでなく社会に出てからも通用する、「汎用的能力」を身に付けさせるべきだと提言したのです。この答申がきっかけとなり、「大学教育を変えるには、高校教育も変わってもらわなければならない。それには大学入試の改革が必要だ」という話になって、1点刻みの大学入試を排除するという今般の「高大接続改革」に至ったほどです。

保護者世代に比べれば、今の子どもたちは少しかわいそうかもしれません。学生時代に怠けていた身としては、申し訳ない気持ちにさえなります。ただ、コピー&ペースト(コピペ、切り貼り)といった技術の発展でさまざまな誘惑がある時代だからこそ、安易な行為に走らないよう、厳しく注意する必要があるのかもしれません。いずれにしても就職活動時や入社後に泣くのは、学生本人なのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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