アクティブ・ラーニング時代の教科書はどうなる

子どもにとっても、学校の先生にとっても、授業の中心となるのは、言うまでもなく教科書です。文部科学相の諮問機関、教科用図書検定審議会(教科書検定審)は、次期学習指導要領に対応した教科書の改善方法などについて、検討を始めました。今後、教科書はどうなるのでしょう。

「三つの柱」育成の手助けに

単に知識を記憶して、テストで再現できる<狭い学力>にとどまらず、(1)何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)(2)理解していること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)(3)どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性等)……という「資質・能力の三つの柱」を、全教科で育成しようというのが、次期指導要領の眼目です。そのためには、授業も「主体的・対話的で深い学び」に変えていく必要があり、それを実現するのが、能動的な授業の総称である「アクティブ・ラーニング」(AL)の視点だ……というふうに、中央教育審議会の教育課程部会「審議のまとめ」は位置付けています。

そうなると、一斉講義型が中心の、旧来型の授業では済まされません。前提となる知識はしっかり教えたうえで、子どもがその知識を使って考えたり、友達と討論して考えを深め合ったり、話し合った内容をまとめたり発表したりするといった、多様な学習活動を豊富に取り入れることで、子どもの活動はもとより、頭の中も「アクティブ」にすることが必要です。

新しい教科書は、そんな授業改善の手助けになることが求められます。「審議のまとめ」でも、「学習指導要領等が目指す理念を各学校において実践できるかは、教科書がどう改善されていくかにもかかっている」と指摘しています。

教科書会社も、先生も、検定審も迷う?

ただ、そんな教科書をどう作ったらよいのか。中教審の会合を傍聴していた教科書会社の編集者は、みな頭を抱えています。実際には、指導要領が正式に告示されて(今年度中の予定)、その後に出される文部科学省の「解説書」を見ないと、編集のしようもない……というのが実態のようです。

教科書を使う学校の先生にとっても、大変です。現在でも、「教科書を1年間でこなすのに精いっぱい」という話は、よく聞きます。そんな<ゆとり>のない授業の中で、これまで以上にALを取り入れて、しかも三つの柱に基づく資質・能力を子どもたち一人ひとりに着実に身に付けさせることが求められれば、授業時間がいくらあっても足りません。次期指導要領に対する理解が深まるほど、本当に改訂の趣旨どおり実施できるのか、心配の声が広がっています。

教科書検定審でも、委員たちは、どのような教科書の在り方が求められるのか、まだ具体的なイメージがつかみ切れていないようでした。今後、「教科書以外の様々な教材も組み合わせて」(審議のまとめ)学びの質を高められるような教科書を、教科書会社に編集してもらう手助けとなるよう、突っ込んだ議論が求められます。

そうした教科書ができれば、学ぶ側の子どもたちにも、教科書のイメージを一新する必要が出てくるでしょう。もう教科書は、「覚える」だけの対象ではなくなるのです。

※平成28年度教科用図書検定調査審議会総会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/106/index.htm

  • ※次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(第1部)
  • http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/09/09/1377021_1_1_11_1.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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