教科書検定はどう変わるのか‐渡辺敦司‐

文部科学省はこのほど、教科書検定基準の改正を告示しました。2016(平成28)年度以降に使用される中学校などの教科書から適用されます。どのような改正が行われ、それはどういった経緯によるものなのか、整理しておきましょう。

教科書検定はどう変わるのか‐渡辺敦司‐


1月17日付の告示では、中学校の社会科や高校の地理歴史科(地図を除く)で、現行の検定基準で「未確定な時事的事象について断定的に記述していたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと」としていた条項に「特定の事柄を強調し過ぎていたり(するところはないこと)」を加えるとともに、新たに「近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童又は生徒が誤解するおそれのある表現がないこと」「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」という条項を設けました。
これについて下村博文文部科学相は同日の記者会見で「政府による歴史観や政治的立場の押しつけではなく、政府がどのような立場を取っているか教えることは必要。政府と異なる見解を併記することを否定するわけではない。特定の歴史観や政治的立場の押しつけではなく、むしろ生徒が自らの見解を形成していくうえで必要なことだ」と説明しています。

このような改正が行われるに至った経緯ですが、直接には2013(平成25)年11月15日に下村文科相が発表した「教科書改革実行プラン」がもとになっています。そこでは、

(1)バランス良く教えられる教科書となるよう、検定基準を見直し(通説的な見解がない場合や、特定の事柄や見解を特別に強調している場合などに、よりバランスの取れた記述にするための条項を新設・改正 ▽政府の統一的な見解や確定した判例がある場合の対応に関する条項を新設)
(2)教育基本法の目標等に照らして重大な欠陥がある場合を検定不合格要件として明記

としたほか、手続きの透明化を図ることを打ち出していました。同月22日には教科用図書検定調査審議会にさっそく審議を要請。同審議会は2回目の総会(12月20日)で事務局案を了承し、「審議のまとめ(外部のPDFにリンク)」として公表しました。基準の改正は、12月25日から今年1月14日までパブリックコメント(意見公募手続)を行ったうえで決定したものです。

与党自民党は政権を奪回した2012(平成24)年12月の総選挙公約(外部のPDFにリンク)で「教科書検定基準を抜本的に改善」するとし、同党の「教育再生実行本部」の部会(外部のPDFにリンク)も2013(平成25)年6月、現行教科書に「いまだ自虐史観に強くとらわれるなど教育基本法や学習指導要領の趣旨に沿っているのか疑問を感じるものがある」「領土問題については……我が国が主張している立場が十分に記述されていない」などとして対応を求めていました。下村文科相がプランの発表からわずか2か月ほどで検定基準改正にまで踏み切ったことは、中学校教科書の検定周期(外部のPDFにリンク)に間に合わせることはもちろん、内閣の最重要課題と位置付ける「教育再生」を政治主導によりスピード感をもって実行するのだという強い意志を貫いたものだということができます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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