幼児期の困った行動への関わり方【後編】言葉に意味を持たせよう

前回、幼児期の困った行動には、子どもの気持ちに寄り添うことが大切だとお伝えしました。ただ、頭で理解していても、忙しい日々の中では、なかなかうまくいかないことも多いものです。今回は、さらに具体的にどのような関わり方をすればよいのか、世田谷子どもクリニック副院長であり、臨床心理士の帆足暁子先生にお話を聞きました。



幼児期の困った行動への関わり方【後編】言葉に意味を持たせよう


保護者の言葉に意味を持たせる

お子さまが「なかなか言うことを聞かない」とお困りの保護者のかたは、多いと思います。たとえば、お風呂の時間なのに遊び続けている場合、「お風呂に入らないと怒るわよ」「もう知らない、一人で入りなさい」と言ってしまうことがあるかもしれません。ただ、お子さまに脅しをかけて行動を促すのは、よいことではありません。たとえ、お風呂に入ったとしても、脅されて怖いから従っているだけで、自分の気持ちを抑えてしまっていることが多いのです。自分の思いを出しているだけなのに、「脅されて従う」ことが続くと、家庭で自分の気持ちを出せないようになり、脅されない保育園や幼稚園で反抗的な態度をとるようになってしまいます。
お子さまに行動を促すためには、感情的にならず、まず保護者からきちんとなぜなのかを話してみましょう。「遊びたいのはわかるけれど、汗をかいたからお風呂に入ったほうが気持ちよくなるよ」といった具合です。それでも聞かない場合は、「5分だけ延長ね」と子どもに譲歩するのもよいと思います。ここで大切なのは、さらに譲歩しないということです。さらに遊びたいと言うなら「お風呂か遊びかどっちか選んでね」と伝えて、子どもに選択をしてもらいます。お風呂であれば1日ぐらい入らなくても問題ありませんからね。

子どもをしつけるには、このように「言葉に意味を持たせること」がとても大切です。育てにくくなるのは、保護者の言うことと行動が一致していなかったり、状況によってコロコロ変わったりするなど、言葉に意味を持たせないからです。「昨日と今日、言っていることが違う」「だだをこねれば許してくれるだろう」と思えば、子どもはますます制限なく要求をしてくるようになるのです。その結果「わがまま」になって、育てにくいと思ってしまいます。



保護者の気持ちを言葉で伝えて

また、お子さまが言うことを聞かないのは、保護者の気持ちがお子さまの心に響いていない可能性もあります。最近は、喜怒哀楽を言葉にするのが苦手な保護者のかたが多いように感じます。普段はがまんしていて限界になってからカーッと怒るよりも、あまりがまんせず「お願い、いまは静かにしてほしいな」と、お子さまに穏やかに頼んでみませんか。そして、少しでも静かにしてくれたら、「ありがとう。うれしいな」と、子どもにうれしい気持ちを伝えてください。保護者のうれしい気持ちが子どもに伝わると、お子さまは自分に自信を持ち、喜びます。
お子さまがイライラしている理由がわからなかったら、「イライラしているけれど、幼稚園で何かいやなことがあったの」と声をかけてください。そうすると、自分でも気付かなかったことに気付いたり、わかってくれたと安心したりして、自然とお子さまも落ち着いてきますし、お子さまにつられて保護者もヒートアップせずに済みます。お互いの気持ちを言葉で伝えられれば、親子関係だけでなく、夫婦関係もスムーズなものになっていくはずです。



子育てがつらいなと思ったら信頼できる人に相談を

家事や仕事は自分ががんばった分、評価や結果はついてきますが、子育ては、自分の思いどおりにならないことも多いです。ときに自信がなくなることもあるかもしれません。でも、多くの保護者はお子さまのために十分がんばっています。ですから、たまにはご自分をほめてほしいと思います。
そこで私が提案したいのは、月1回以上、自分の自由な時間を持つということ。配偶者や祖父母、あるいは子ども家庭支援センター等で子どもを見てもらい、自分の好きなように時間を使いましょう。喫茶店でお茶をしたり、ウインドーショッピングをしたり、何でもよいのです。そうするとゆったりのんびりできて、そのゆとりでお子さまによい対応ができると思います。

それでも気分が変わらない、子育てがつらいと感じることがあったら、がまんせずに、子ども家庭支援センターや保健センター等に連絡して、相談してみてください。行政がさまざまな子育て支援を行っています。お子さまと保護者自身のために、社会の制度をぜひ活用してください。もし、「保護者の育て方が悪い」と言う人がいたら、勉強不足だと思ってそうした意見は無視して(笑)、保護者の気持ちを理解してくれる相談相手を見つけましょう。サポートを受けながら楽しく子育てをしたほうがずっと、保護者にとってもお子さまにとってもプラスになると思います。


プロフィール


帆足暁子

臨床心理士としてクリニックにおける子育て相談や心理相談で、日々子どもや保護者と向き合う一方、幼稚園教諭や保育士の資格を生かし、大学では子どもと保護者を大切にできる保育者の養成に携わる。著書に『育てにくさをもつ子どもたちのホームケア』(診断と治療社)など。

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