高校授業料の無償化、所得制限3年目の状況は?

高校の授業料無償化に所得制限を付けて、一定の所得世帯などに手厚く支給する「高等学校等就学支援金制度(新制度)」が実施されてから、3年が過ぎました。
国会付帯決議に基づく見直し時期を迎え、文部科学省は有識者による会議を設けて、検討を始めています。現在、どのような状況になっているのでしょうか。

経済的理由による中退が減少

民主党政権下の2010(平成22)年度に、公立高校の授業料無償化と、私立高校生に同額を支給する就学支援金が導入されました(旧制度)。自民・公明両党への政権交代により2014(平成26)年度から、公・私立高校を一本化するとともに、年収910万円以上の高所得世帯(約2割)に支給しない代わりに、同590万~910万円未満世帯には年11万8,800円(月9,900円分)、市町村民税が課税されない同250万円未満世帯の私立高校生にはその2.5倍(年29万7,000円)を支給するなど、所得に応じて支給額を傾斜配分しています(新制度)。財源を捻出して、授業料以外の教育費も軽減するとともに、私立高校生への支援を中間所得者層まで拡大して公私間格差を是正することも狙いでした。

旧制度の導入で、生活保護受給世帯の高校進学率は2010(平成22)年度の87.5%から翌年には89.5%に上昇し、全世帯との差は10.5ポイントから8.7ポイントに縮小しました。新制度になってからは、2014(平成26)年度が8.2ポイント差の90.2%、15(同27)年度が6.9ポイント差の91.6%となっています。経済的理由から高校進学を断念する子どもが減ったことは、確実です。

経済的理由により高校を中退した生徒も、2009(平成21)年度は全生徒の2.9%に当たる1,647人(うち私立840人)でしたが、10(同22)年度は1.9%に当たる1,043人(同521人)、14(同26)年度は1.3%に当たる553人(同309人)などと減っていき、15(同27)年度は1.2%に当たる487人(同292人)でした。経済的理由による長期欠席者も近年、減少傾向にあります。

私立の生徒は増えたけど…

授業料などの負担が軽減されたこともあって、私立高校に進学する生徒が増えています。2010(平成22)年度、私立の占める割合は31.0%でしたが、その後は徐々に伸び、16(同28)年度は33.3%と3人に1人となっています。

ただ、私立高校の平均授業料(2016<平成28>年度)は、鳥取県の約26万円から大阪府の約57万円まで、開きがあります。所得に応じて加算されても、なお授業料がまかなえない都道府県は少なくありません。

私立高校は、授業料以外の学校納付金もかさみます。2016(平成28)年度の平均(全日制)を見ると、授業料は約39万円でしたが、入学料は約16万円、施設整備費等は約17万円で、合わせると約72万円にもなります。しかも、授業料が年々上がっています。少子化による生徒減のなかでも、生き残りをかけてアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)やICT(情報通信技術)などの教育を充実させるには、費用がかかるのは仕方ない側面もあります。

国から都道府県に移管されて久しい高校の奨学金事業も含めて、高校生がお金の心配をすることなく安心して学べる修学支援の在り方を、具体的に検証する必要があります。景気回復の実感を得られない家庭が少なくないなか、より手厚い支援策を検討してもらいたいものです。

※高等学校等就学支援金制度(新制度)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm

※高校生等への修学支援に関する協力者会議
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/132/index.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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