情報化の市町村格差に文科省が危機感

文部科学省は、2015(平成27)年度の「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(速報値)の結果をまとめると同時に、全国の市町村別の教育用コンピューターの整備状況などを公表しました。速報値の段階で、市町村別の整備状況などを明らかにするのは、異例のことです。なぜ文科省は、市町村別のコンピューター整備状況などの公表に踏み切ったのでしょうか。

整備は進むが目標達成は困難

調査は2016(平成28)年3月1日現在で、小学校から高校までの全国の公立学校のコンピューター設置状況などをまとめたものです。それによると、2015(平成27)年度の公立学校全体の教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は6.2人(前年度比0.2人減)で、過去最高となりました。
インターネットにつなぐために必要な、普通教室での校内LANの整備率は87.7%(同1.3ポイント増)で、やはり過去最高を更新。電子黒板の整備総数は、前年度よりも1万1,402台増の10万1,905台で、初めて10万台を超えました。普通教室の電子黒板整備率も21.9%(同2.5ポイント増)で、やはり過去最高となっています。

一見すると、教育の情報化は、着実に進んでいるように見えます。ところが、文科省の「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」(2014~17<平成26〜29>年度)では、教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は3.6人、普通教室の電子黒板設置率は100%といった目標を掲げています。つまり、このままでは、目標達成は非常に困難ということになります。

もう一つの大きな問題は、コンピューター設置状況などの地域格差です。たとえば、都道府県の教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数は、トップの佐賀県が2.2人なのに対して、最下位の埼玉県と神奈川県は各8.2人で、3.7倍の差があります。また、電子黒板のある学校の割合は、最高は佐賀県の100%、最低の宮崎県は49.3%にすぎません。

結果公表で予算化を促す

アクティブ・ラーニングに代表されるように、知識とともに学び方を重視する次期学習指導要領では、情報環境の整備が、より重要になってきます。一方、コンピューター設置状況などの地域格差は拡大する傾向にあり、文科省は「新たな教育格差をも生みかねない」と強い危機感を表明しています。

この責任は、都道府県だけでなく、市町村にもあります。義務教育段階の学校の情報化整備は、市町村の管轄だからです。政府は、4か年計画の具体化のため、地方交付税で総額6,712億円(単年度1,678億円)を地方自治体に措置しています。しかし、地方交付税の使い方は各自治体に任されているため、多くの市町村では、教育の情報化のための予算が学校まで届いていないのが実情のようです。このため文科省は、市町村別のコンピューター設置状況などを明らかにすることで、各自治体が必要な予算を学校に交付するよう促しています。

地方自治体の財政事情には厳しいものがあります。けれども、1人1台でコンピューターを使っている学校と、大勢で1台を使っている学校とでは、これからの教育に大きな違いが出てくるでしょう。新たな地域格差にもつながりかねません。保護者なども、自分たちの市町村の情報化整備の状況に関心を持ってみてはいかがでしょうか。

※教育情報化の推進に対応した教育環境の整備充実について(通知)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1376787.htm

※教育情報化実態調査・市町村別データ
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001075698&cycode=0

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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