「~しないように」を言い換えてみませんか?[やる気を引き出すコーチング]

「この前、面白いことがあったんです!」と喜々として語ってくださったのは、小学生のお子さん2人を育てながら、フルタイムでお仕事をしているAさん。「私が出張で留守にする時、おばあちゃんちに預けるんですが、いい子にしていないと迷惑をかけるので、留守中の約束事を紙に書いて、子どもたちに渡しておくんです。いつも、きょうだいげんかをしておばあちゃんを困らせるので、『けんかはしないように』と書いていたんですが、この前、ちょっと思いついて、『きょうだい仲良くね』と書いてみたんです。そうしたら、その時は、まったくけんかをしないで、いい子にしていたらしいんですよ。たまたまなのかもしれませんが、びっくりしました。『~しないように』って、やっぱり、やめたほうがいいですよね」。

なかなか興味深いAさんのお話です。そういえば、『~しないように』という言葉、けっこう耳にしますね。ほかの言葉も、Aさんの例のように言い換えてみるとしたら、どんな言い方ができるでしょうか。



肯定表現に変換する

たとえば……
・「忘れないように」⇒「~することを覚えておいて」
・「騒がないように」⇒「口を閉じて聴いてみよう」
・「遅れないように」⇒「8:45には座っておいて」
・「廊下は走らないように」⇒「廊下は歩こう」
など、これらは、実際に、小学校で実践しているという先生からお聴きした表現です。
なるほど、肯定表現で伝えられると、「やってはいけない」イメージではなく、「こうするといいんだ」という理想のイメージのほうが浮かんできますね。
「肯定表現を意識すると、子どもたちだけでなく、私たち教員も気持ちが穏やかになってきた気がします」という先生の言葉もとても印象的でした。



W(ダブル)肯定表現

「~しないように」とともに、否定表現で気になるのが「W(ダブル)否定表現」です。「勉強しないと、テストでいい点とれないよ」というように否定形を2つ重ねる言い方です。そう言われても、正直なところ、やる気は起きません。「~しないと、~できないよ」という言い方は、叱咤(しった)激励のつもりで言ったとしても、相手を否定する言葉です。「~していないあなたはダメ!」と否定しています。それに、あまり明るい未来をイメージさせない表現です。同じように言い換えてみましょう。

「勉強すると、テストでいい点とれるよ」

W肯定表現です。W否定よりも、希望が感じられませんか。同様に、
「たくさん食べると、元気になれるよ」
「練習すると、もっと上手になるよ」
「先に片付けてしまうと、あとでたくさん遊べるよ」
など、ほかにも応用できそうです。



肯定表現が肯定思考を生む

「そんな言い回しぐらいで、子どものやる気スイッチが入るものなのか?」と思われるかもしれませんが、これらの言葉をかけ続けられた子どもの思考癖は、将来、きっと大きな違いをもたらすはずだと私は思っています。
というのは、私自身が、コーチングと出会い、肯定表現でコミュニケーションをとるようになってから、思考もずいぶん肯定的になったと実感しているからです。「緊張しないように」と言われると、よけいに緊張してしまいますが、「楽しんでね」とか「リラックスしていこう」などと言われると、楽に落ち着いて考えられるようになりました。また、何か課題にぶつかった時、「~しないと、~できないんだ」と思うと、気持ちが重くなりますが、「~すれば、~できるんだ」と考えられると、ちょっと希望がわいてきます。取り組む前から、否定的に考えて尻込みしていた私が、今できることを考えてチャレンジするようになったのです。

子どものころから、肯定表現で声をかけられていたら、自然と物事を前向きに考えられる人になっていくのではないでしょうか。もちろん、声をかける側も、自ずと肯定思考になり、意欲がわいてきます。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。『子どもを伸ばす共育コーチング』『コーチングで学ぶ「言葉かけ」練習帳』など、コーチングの子育てへの活用に関する著書も多数。

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