算数・数学好きの子どもを育てるには【後編】幼児からできる算数好きになる秘密のワザ

算数・数学を好きな子どもを育てるには、自分で考える力を身に付けさせることが大切だといいます。前回に引き続き、横浜国立大学大学院教授の根上生也先生に、数学好きの子どもを育てるために家庭で実践できることについて伺いました。



数学が得意な子の共通点

算数・数学が得意だと思っている子どもたちに共通していることが3つあります。1つ目は、自分で考えないと気がすまないこと。2つ目は、自分はきちんと考えられるという自信と誇りを持っていること。3つ目は、計算問題が嫌いだということです(笑)。なので、数学好きな子どもに育てるには、幼少期から自分で考えるという態度を育むことが重要です。
もちろん、誰だって好き勝手に自分で考えて行動したいでしょう。実際、算数が得意な子も苦手な子も、好き勝手に考えるという点は共通しています。しかし、算数が苦手な子は、先生の話も好き勝手に聞いてしまう。だから、全部が好き勝手になっているので、考えに数学的な整合性がなくなってしまう。反対に、算数が得意な子は、先生の話をしっかり聞いたうえで、それを前提に自由に考えます。こういう態度はほかの教科でも必要でしょう。



算数好きを育てる秘密のワザ

自分で考える力を持つ子どもに育てるには、言葉を覚え始めたころからの保護者の接し方が重要です。1~3歳のお子さんをお持ちのかたは、ぜひ次の2つを実践してみてください。

その1:子どもが言ったことを「そうだね」と言って心から受け止める。
たとえ犬を見て「ニャー」と言ったからといって、それを否定してはいけません。子どもの心の中には「ニャー」で表したい何かがあるはずです。それを「そうだね」と言ってあげる。大人の都合で無視したり、事実と違うと拒否したりせずに、保護者として心から受け止めてあげましょう。自分の理解や判断に自信を持たせてあげることが大切なのです。

その2:理由とともに、要求を言うようにさせる。
たとえば、「ドーナツが食べたい」とだけ言っても、ドーナツはあげない。「どうして食べたいの」と理由を聞いて、「お腹がすいたから、食べたい」「食べたことがないから、食べたい」のような複文を言わせるように仕向けましょう。
本当は「AならばB」という文を言わせたいのですが、小さい子には「前提と結論」という構図を理解するのは難しいでしょう。なので、「理由と要求」という形に変えてそれを言う練習をさせるわけです。それが定着して「AならばB」の文が言えるようになれば、Aを聞けばBを発想する頭ができあがります。その結果、Aと言えば、自分で考えて、Bをする子になるでしょう。
学校や塾では、Aを習ってAができるようになるだけという勉強が多いように思います。Aを習ったおかげで、これまでの自分では解決できなかったBが解決できるようになれば、勉強していても楽しいでしょう。算数・数学が好きな子どもは、自分自身の頭の中でそれを実現しているのです。



算数の面白さに出会うには

残念なことに、既に算数は嫌いだというお子さんを抱えているかたも多いでしょう。そういう場合は、学校の授業以外に目を向けてみるとよいかもしれません。算数・数学の面白さに出会う機会は意外にたくさんあるものです。
マンガ好きな子ならば、算数に関するマンガはいかがでしょうか。私は、『和算に恋した少女』というマンガの監修をしています。和算とは、江戸時代に日本独自に発達した数学のことです。江戸の町を舞台に、主人公の女の子が、数学の発想で事件を解決していきます。「和算」とうたっていますが、パズルやゲームのような数学が満載です。数学をテーマにしたミュージカルなどもありますので、興味があるかたはぜひ調べてください。また、前回冒頭で紹介した「円描き大会」などの数学イベントに参加するのもよいかもしれません。
算数・数学が好きな子どもの能力をさらに伸ばしたければ、算数・数学のコンクールに参加することをおすすめします。「算数・数学の自由研究」「数学甲子園」といった大会があります。学校という枠を越えて、自由に算数・数学の世界で遊ばせてあげましょう。



保護者へのメッセージ

学校でよい成績を取ることも大切ですが、目先のことばかりにとらわれて、保護者や先生の言うことに素直に従って勉強する子どもにしてしまうと、自分で考える態度を失った人間になってしまう危険があります。実際、最近の大学生や大学院生の中には「新型うつ病」と診断される者が増えています。今までは言われたとおりに勉強してきたけれど、急に主体的に学ぶことを求められ、戸惑い、心を病んでしまうのかもしれません。
「自分できちんと考えられる」という自信は、数学だけでなくすべての教科において、また生きていくうえでとても重要なことです。子ども自身の考えを尊重して、自己肯定感を持った人間になるように、小さいころから温かく育ててあげてください。

『和算に恋した少女』『和算に恋した少女』
<小学館/中川 真(著)、風狸 けん(イラスト)/580円=税込>

プロフィール


根上生也

横浜国立大学大学院環境情報研究院教授。理学博士。「基礎数学力」をキーワードとした数学教育の在り方を提言し、啓蒙(けいもう)活動も活発に行っている。著書に『計算しない数学』(青春出版社)など多数。映画、テレビドラマ・マンガ・アニメなどの監修も手掛けている。

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