大学生の就職活動、見直しに必要な「教育」の視点

夏休みも中盤ですが、来春に卒業を控える大学4年生などは、暑い中を就職活動に走り回っていた人、早々に内定を得て最後の学生生活を満喫した人、悲喜こもごもだったかもしれません。しかも、採用選考開始日の「後ろ倒し」がわずか1年で見直され、日程変更に振り回された学生たちです。
そんななか、大学などの関係団体でつくる就職問題懇談会(事務局=文部科学省)は、今春卒業生に関わる就職・採用活動の状況について、調査結果をまとめました。この問題を、どう考えるべきでしょうか。

活動が長期化した今春卒業生

就職・採用の日程をめぐっては、2013(平成25)年春の卒業生から、(1)会社説明会(広報活動)開始日は3年生の12月1日以降(2)採用選考開始日は4年生の4月1日以降(3)正式内定日は10月1日以降……とすることが決まっていました。

しかし、2012(平成24)年末に政権復帰を果たした安倍晋三首相は、それでは大学教育が実質3年間しか評価されないとして、経済団体に対して、日程の後ろ倒しを要望。これに対し、安倍首相の経済政策「アベノミクス」に大きな期待を掛けていた経団連などが応じ、2016(平成28)年春の卒業生から、(1)を3年生の3月1日以降(2)を4年生の8月1日以降(3)を10月1日以降……というふうに、後ろ倒しする「指針」を定めました。

ところが、ふたを開けてみると、指針の日程より前に採用活動を実施したり、経団連の指針に縛られない中小企業などが、内定を出した学生に以後の就職活動の終了を迫る「オワハラ」(就職活動終われハラスメント)が問題になったりするなど、混乱が相次ぎました。そのため経団連は昨年12月、(1)と(3)はそのままにするものの、(2)を6月1日以降と2か月戻す指針の見直しを行いました。

6割が「学業に専念しにくかった」

調査では、今春卒業者((2)が8月1日以降)に関して大学側に尋ねたところ、学生が「就職活動に影響されず後期試験に取り組めた」「就職活動等の準備ができた」と回答したのは2割前後で、6~7割は「前年度(同4月1日以降)と変わりない」としていました。一方、学生自身に尋ねると、5割前後が、後期試験への取り組みや、就職活動の準備ができたと答えています。当事者にとっては、後ろ倒しの意味はあったようです。

ただ、企業の足並みがそろわなかったため「混乱があった」とする認識では一致します。実際、選考開始のピークは4月からだったようで、6割の学生が7月までに内々定を得ていました。そのうえに、指針を守って8月以降に採用活動を始める企業があるのですから、就職活動が長期化するのも当然です。その結果、6割の学生が「学業に専念しにくかった」と答え、その時期は4~7月が大半でした。

改めて考えなければならないのは、本来、大学教育に支障がないような慣行をつくらなければならないということです。実質3年目が終わるか終らないかのうちに内定を出すというのは、本来おかしなことです。
今、大学教育改革によって、4年間の修学の在り方も見直しが迫られている時期です。現在の4年生の実態も踏まえ、大学・学生側と企業側が、真剣に話し合うべき時が来ているのではないでしょうか。

※採用選考に関する指針(経団連)
http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/112.html

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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