学校における道徳教育の変遷、教科化が目指すものとは
文部科学省は、小学校では2018(平成30)年度、中学校では2019(平成31)年度から「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」に変更し、より力を入れていくとしています。円滑な社会生活を営むためには、さまざまなルール・マナーを身につけ、善悪の判断を行う必要があります。
いじめなどの重大な問題も少なくない昨今、ますます高まる道徳教育の必要性は高まっています。今までの道徳教育の変遷をたどるとともに、今後教科化に期待したいことを考えてみましょう。
道徳教育はいつから始まった?
【1】戦前の道徳教育「修身」
第二次世界大戦以前は「修身」という名で学校での道徳教育が行われていました。終戦後、GHQの民主化路線によって、極端な国家主義・軍国主義的だった修身は撤廃され、特定の道徳の時間はもたず、学校教育全体を通じて道徳教育が行われることになりました。 内容においても、幸福や理想を目指して共同社会の一員として働く自覚をもたせ、普遍的な国際性をもった人格を形成しようとするものになり、戦前と戦後で道徳教育は大きく変化しました。
【2】「道徳の時間」の始まり
1958(昭和33)年、戦後10年以上を経て学習指導要領が改訂されました。公立の小中学校では、週1時間の道徳の時間に学校全体を通じて行われる道徳教育を補充・深化・統合することになりました。
それが、今日まで続いてきた教科外の特設時間、「道徳の時間」の始まりです。
昔と今、道徳教育の内容の違い
戦後、高度経済成長を経て、日本は大きく変化してきました。近年においても、グローバル化や情報通信技術の進展、少子高齢化の進行など、社会は激しく変化しています。それに伴いさまざまな課題も生まれ、人として求められる資質も少しずつ変容し続けており、道徳教育の内容も変わることを余儀なくされています。
昔はなかった「情報モラル」に関する指導もそのひとつです。近年、小学生でも携帯電話やスマートフォンを所持することが多くなりました。インターネット等の普及が急速に進む中で、携帯電話の小さな画面が世界中にリンクしていることを理解しないまま利用する子どもが増えています。
その結果、インターネット上の掲示板への書き込みによる誹謗中傷や、携帯電話のメールによるいじめといった、いわゆる「ネットいじめ」が多発するなどの課題が生まれており、時代に即した情報モラルに関する指導の必要性が高まっています。
教科化が目指すもの
道徳教育が「学校の教育活動全体を通じて行うもの」であり、道徳は各教科などで行われる道徳教育の要の時間として位置づけられていることは、今までと変わりありません。授業時間数も、小学1年生は年34時間、小学2年生~中学3年生は年35時間で、現状と同じです。
しかし、そのあり方が問われています。現在の道徳の時間は「教材を読むことに終始している」と、形骸化を指摘する声も少なくありません。それを踏まえ、今回の変更点では、問題解決や体験的な学習なども取り入れ「考え、議論する」道徳教育を目指しています。また、「何を知っているか」だけでなく「知っていることを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」の資質・能力にまで引き上げることを目指すとしており、教師は今まで以上に多様な展開と指導方法の工夫が求められています。
政治や経済の動向、社会情勢の変化に伴って変遷してきた日本の道徳教育。今後も、さらに少子高齢化や人口減という事態が進むにつれ、日本社会ではこれまでなかったような難題が次々と発生することが予想されます。
道徳の教科化という改革で、学校教育全体がどのように変化しようとしているのか注目するとともに、家庭や地域社会の中でも子どもの道徳性を育む取り組みに力を尽くしていかなければなりません。
- ※第3章 教育の目標・内容と社会・済の発展 2 わが国の教育目標・内容の史的展開 (3)教科内容—道徳教育を中心として—
- http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpad196201/hpad196201_2_024.html
- ※現行学習指導要領・生きる力 一部改正学習指導要領等(平成27年3月)
- http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/1356248.htm