勉強がはかどらないのは「受験うつ」かも?【知識編】

「受験勉強がはかどらない」「問題集を読んでも頭に入らない」「覚えたはずのことまで思い出せなくなる」……といった症状が2週間以上続いている場合、お子さまが受験うつになっている可能性があります。受験生のうつ治療に数多く携わってきた本郷赤門前クリニックの吉田たかよし院長にお話を伺いました。



勉強がはかどらないのは「受験うつ」かも?【知識編】


受験期にうつ症状になるお子さまが増えている

近年、未成年のお子さまがうつ病を発症するケースが増加し、厚生労働省の調査では、未成年の気分障害患者数は、およそ15万人もいることがわかっています。特に「受験うつ」と呼ばれる症状を訴えるお子さまが多くなっています。「受験うつ」といっても、受験生特有のうつ病が存在するわけではなく、受験期に発症するうつ症状の通称のことです。

うつ病のお子さまが増えている主な原因としては、お子さまの精神面が弱くなっているということが挙げられます。これは日本に限ったことではなく、欧米などの先進国にも言えることです。物質的に豊かな世の中になり、ハングリー精神がないお子さまが増え、昔よりも精神面が弱まっていると考えられます。

また、子どものころからゲームに慣れ親しんでいるお子さまが多いことも影響しています。自分が実際に体を動かし、努力した結果、快感を得るのではなく、手先だけを動かして簡単に快感を得られる習慣がついてしまっているため、一生懸命にがんばることが苦手なお子さまが増えているのです。そして、現在のように成熟しきった社会では、戦後の日本のようにこれから社会が進展するという期待を持てないため、子どもたちも前向きな心理状況になれないのではないかと考えられています。



受験期に多いのは「新型うつ」

うつ病にはいくつかのタイプがあるのですが、受験期に「うつ症状」で受診する患者さんの過半数が「新型うつ」であることが多いです。この「新型うつ」ですが、実態はまだわかっていない部分が多く、学会でもその明確な定義もまだありません。ただ、今までのうつ病のイメージには当てはまらないタイプのうつ病が急増しているのは確かで、これが「新型うつ」と呼ばれています。従来型のうつ病は、「何に対しても気力がわかない」「興味や関心が低下する」などのような症状が見られるのに対し、「新型うつ」では、仕事や勉強中にうつ症状はあるものの、自分の好きなことは楽しくできるという特徴を持っています。

「新型うつ」の主な原因として多くの研究者が主張しているのが、自己愛の暴走です。自己愛は、誰でも持っているものです。しかし、これが過剰に膨れ上がり、現実との間で折り合いを付けられなくなると、「自己愛性パーソナリティー障害」を起こします。受験生の場合、自分自身の能力を過剰に評価してしまうため、受験勉強で保護者や自分が期待している評価を得られない結果、ストレスとなり、うつ状態になってしまうケースが多く見受けられます。受験生の場合は、これが「新型うつ」の原因となると考えられています。

欧米などでは、児童虐待をされた子どもが「自己愛性パーソナリティー障害」を発症することが多いことがわかっていました。近年の日本の場合は、保護者がお子さまにゆがんだ愛情を注ぐことによって、こうした障害が発症するケースが増えています。たとえば、お子さまが小さいころは、「子どもが幸せになる」という目的を叶えるために、その手段として受験勉強を応援していたのに、途中から、手段であるよい点をとることや、よい大学に入ることが保護者の目的化してしまうのです。そのためお子さまは、「自分が一生懸命勉強しているから愛されている」あるいは「学歴が高いから愛されている」、そうじゃなければ愛されていないのではないかと感じてしまうのです。



2週間以上、うつ症状が見られたら専門医に相談を

うつ病全般に見られる症状は下記のとおりです。

心の症状
・勉強が手につかない
・記憶力や集中力の低下
・自殺願望
・悲しみや絶望を感じる

体の症状
・睡眠障害
・食欲不振・過食
・過剰な疲労感

通常、2週間以上たてば、嫌なことがあっても、心は回復していくものです。しかし、2週間以上、上記の症状が続いたらうつ症状であることが多いですので、お近くの精神科か心療内科を受診することをおすすめします。専門の治療が必要であれば、専門機関を紹介してくれるはずです。お子さまが行きたがらない場合は、まずは保護者だけでも構いません。



お子さまの治療だけでなく保護者への治療が必要な場合も

お子さまがうつ症状である場合、保護者自身がストレスや、心に問題を抱えている場合も多いです。たとえば、社会的地位の高いご家庭で、名門大学にお子さまを入学させなければと保護者自身が周囲からプレッシャーを掛けられている場合、お子さまにそのストレスを負わせてしまうことがあります。また、保護者同士がお子さまの学歴を競争し合い、お子さまが巻き込まれてしまいストレスを感じるといったケースもあります。
このような場合は保護者への治療だけで、お子さまのうつ症状が軽減することもよくあります。保護者自身が受験によるストレスを抱えている場合も相談してほしいですね。

次回は受験うつの治療や予防についてご紹介します。

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<こう書房/吉田たかよし (著)/1,512円=税込>

プロフィール


吉田たかよし

1964年生まれ。医学博士。本郷赤門前クリニック院長(受験生専門の心療内科)、新宿メンタルクリニック顧問(受験うつ)。『子どもの「学習脳」を育てる法則』(こう書房)、『勝てる子供の脳』(角川書店)、『脳を活かす! 必勝の時間攻略法』(講談社)など、著書多数。

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