『ベネッセ進学フェア2014』講演会【第1回】「『幸せな中学受験』をつかむ力」

カリスマ塾講師の高濱正伸氏に、子どもの成長段階に合わせた大人の接し方や、学校選びのポイントなどについてお話しいただきました。(『Benesse進学フェア2014』講演会 2014<平成26>年5月、東京国際フォーラムより)。

<Benesse進学フェア2014 講演会(動画)>
<Benesse進学フェア2014 高濱正伸さん講演会(動画)>



学校を選ぶにはトップの話を聞く

学校を選ぶ時には、学校の長(トップ)の話を聞いてください。トップで組織は決まります。高校野球で、監督が移籍したら途端に甲子園に行くなんていうのはよくあること。理事長なり校長なり、決裁者の話を聞いて、その人に子どもを預けていいかを見極めてほしいです。

たとえば私の教え子の話なんですが、小6まで塾にいた男の子のお母さんから相談がありました。子どもが明らかに元気がない、どうやら学校でいじめられているようだ、とのことです。「わかりました、そういう時のための僕ですからね。じゃあ今度の日曜にでも、本人をつれて来てくださいよ」と言いました。お母さんから「学校の信頼できる先生に、一報入れておいたほうがいいですか」と聞かれいたので、「かまわないですよ」と言いました。翌日、時間の確認のためにお母さんに電話したところ、「先生、もう解決しちゃいました」。一報を聞いた学校の先生がすぐに校長先生に伝えて、校長先生が翌朝全校集会を開いたそうです。「うちの学校でこういうことがあったらしいけど、そういうことは絶対許さない」と言ったのだそうです。集会のあとも部活の先輩がぞろぞろ来て「なんかあったらおれに言えばいいんだよ、大丈夫、大丈夫」って言ってくれて、いじめはなくなったそうです。いじめに大人が介入するのは難しい話で、基本的に子どもに任せるべきという論者ですが、言いたかったのは、校長の覚悟が表れているかどうかということです。子どもの教育のために命をかけている校長は即座に動きます。これが「見極める」ということです。

もうひとつ、保護者のかたにお願いしたいのは、在校生の話を聞くことです。それがいちばんわかりやすいからです。その学校に行っている本人や、その保護者から直接話を聞く機会を持ってください。



小学校高学年の子どもが受験をする意味

長年子どもたちを見てきて、子どもが10歳くらいになったころから、親は子どもが思春期に入ることに向けて、態度を切り替えることが必要だなと感じます。それまでの調子で「宿題やったの?」「なんで片付けできないの?」と言えば、思春期が始まるこの時期の子どもは「うるさいな、今やろうと思っていたのに」となってしまうでしょう。切り替えができない親のまま中学受験が始まると、もうめちゃくちゃなことになってしまいます。

親のテリトリーから抜けたがる、外に師匠を求めたがるのがこの時期の子どもだと知っておいてください。親の言うことは聞かなくても、外のすごいと言われる人の話は聞きます。「元プロ野球選手の野球チームの監督」だとか「算数を教えたらすごい先生」だとか。子どもの自立を考えた時、外の人に鍛えられるのはいいことです。そういう意味で、中学受験をすることには意味があります。

ただ、すべての子どもに中学受験をすすめられるわけではありません。6年生の夏になっても身のまわりの片付けができない子どもは、中学受験は諦めたほうがいいでしょう。片付けができないということは、計画を立てるとか、振り返るとか、時間軸をさかのぼって反省する、といったことがまだ身に付いていないわけですから、中学受験はまだ無理です。この子は発達段階的にまだ早かったなと判断し、中学受験ではなく、高校入試に力を注ぐように、切り替えてください。



夫婦の意見は一致させておく

受験に関して、夫婦の意見は、絶対に一致させておいてください。そうしないと子どもが困ります。お母さんが一生懸命に「あれやりなさい」と言ったあと、父と子だけになった時にお父さんが「おまえも大変だなあ、お母さんはなんであんなふうになっちゃったのかな」などと子どもに言うのはよくありません。受験は夫婦で「せーの」でスタートして、「本気の戦い」としてやってください。そうじゃないと、子どもが困ります。それで、もし受験をやめる時は、スパッとやめればいいんです。あとくされなく。

何よりも心配なのは受験に失敗したあと。母親は落ち込みます。その時に大切なのがお父さんの態度です。「おれもああいうところ悪かったと思う、でも次の高校受験でがんばればいいじゃん」とか、気持ちが離れない感じでずっといてくれるとお母さんの立ち直りが早いです。無理に何か言葉を言ってあげよう、と思わなくても、ずっとそばにいるだけでもうれしいはずです。

母親の心の状態は、子どもの心に響きます。子どもが帰宅した時にお母さんが不安定だと子どもも不安定になります。お母さんがおおらかだと、子どもは人生を肯定的に生きます。「花まる学習会」の子どもたちのその後を見てみると、「後伸び」した子どものお母さんはおおらかな人ばかりです。そして心の底から「十分がんばったよ。もう寝な」と言える、おおらか母さんにするのはお父さんの力。ぜひ夫婦で幸せな受験をつかみとってください。


プロフィール


高濱正伸

東京大学・同大学院修士課程卒業。1993(平成5)年に設立した「花まる学習会」では、「数理思考力」「国語力」「野外体験」に重点をおいた教育を実践し、魅力ある子ども、自立する子どもを育成。算数オリンピック委員会理事。

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