幼児からできる! 授業を聴ける心と体づくり【後編】今からできる小学校入学準備
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日本体育大学教授の野井真吾先生によると、子どもが授業に集中できないのは、前編でご紹介しているように、前頭葉の働きが未熟な「そわそわ型」の子どもが増えていること、生活リズムが乱れセロトニン神経が弱化していることが原因だといいます。では、授業に集中できるような心と体を育むために、どうしたらよいでしょうか。幼児期から家庭でできることについてお伺いしました。
ワクドキ体験で、授業に集中できる脳を育てる!
長年、子どもたちの体に関する調査を行っていますが、そのなかで「そわそわ型」のタイプの出現率が2割と極めて低い幼稚園がありました。小1の男の子の7割が「そわそわ型」だという調査結果が出ているのですから、
驚くべき数字です。その幼稚園では特別な超早期教育や道徳教育をやっているわけではありません。ごく普通の幼稚園なのです。しかし、ひとつだけ特徴的な活動がありました。それが、毎朝行われている「じゃれつき遊び」というプログラムです。
「じゃれつき遊び」は、登園してすぐ行われる遊びの時間です。マットの上で友達とじゃれあったり、ロッカーの上から飛び降りたり、毛布を使って綱引きをしたりするなど、何をどのように使って遊んでもOKな時間です。ルールは一切ありません。思いきり身体の筋肉を収縮したり、大声を出したりするダイナミックな遊びで子どもらしい興奮をたっぷり味わえるものになっています。私はこの様子を観察して、朝、思いきり興奮することで、脳が発達し、次第に抑制する力も身に付けているのだと感じました。
こうした遊びは昔の子どもたちにとってごく当たり前のものでした。保護者世代の中にも野山や空き地を駆け回って遊び、ワクワクドキドキした経験があるかたも多いと思います。一見学びとは無関係なこうした感覚が、授業に集中するための<興奮>や、気持ちを抑えるのに必要な<抑制>を育んでいたのです。
しかし、最近は屋内でゲームなどをして過ごす子どもが増え、思いきり身体を動かしたり、大声ではしゃいだりする機会が減ってしまいました。そのため、「そわそわ型」からなかなか脳が移行できない子どもたちが増えているのです。
日中たっぷり太陽の光を浴びて生活リズムを整えよう!
私は、この園のように思いきりワクワクドキドキできるような体験(以下ワクドキ体験)を幼児期に経験することが非常に大切だと考えています。ワクドキ体験は、テーマパークや海外旅行に行くなどしてお金をかけなくてもよいのです。子どもにとって一番のワクドキ体験は、日常のなかにある非日常の体験だからです。私の研究室の学生が行った調査では、男の子にとってはいたずらが一番のワクドキ体験でした。日常的に熱中できることを見つけることが、脳を育むうえでとても重要なのです。
できれば屋外でワクドキ体験をしてほしいと思います。その理由は、日中太陽光をたくさん浴びれば、背筋などの抗重力筋に緊張を与えるセロトニンが増えるからです。セロトニンが増えれば、夜眠るときに重要なメラトニンというホルモンも増やすことにつながり、良質な睡眠も得られるのです。
もし、お子さまの寝起きがよくないなら、遮光カーテンなどではなくレースのカーテンのみにするなどして、朝日を浴びるようにするとよいでしょう。目覚まし時計を3つセットするよりずっと効果的な方法です。我が家ではレースのカーテンもしないため、小学生の娘も午前5時には起床します。その代わり夜は8時半ごろに就寝します。また、夜スムーズに寝られるよう夜の受光を減らすように心掛け、リビングの電灯も暗めにしています。
キーワードは、「光・暗闇・外遊び」
近年、「早寝・早起き・朝ご飯」が大切だとよく言われていますが、塾や習い事で忙しく、早寝をしようと思ってもできない現状もあると思います。 また、保護者も仕事などで忙しく、子どもに早寝をさせられない日も多いかもしれません。私自身も「早寝・早起き・朝ご飯」をスローガンにするのは、難しいなと感じています。 しかし、「光・暗闇・外遊び」なら、なんとかできそうな気がしませんか? 日中、光を浴びて外遊びして、夜暗い所に身をおけば、自然とメラトニンができて、早寝ができるようになる。そうすると早起きができて朝ご飯も食べられるようになりますし、小学校に入学後も授業に集中できるようになるでしょう。
もちろん、「子どものために毎日外遊びさせなくては」などと、保護者のかたが無理をする必要はありません。保護者が無理をしていては、子どもも笑顔になりませんからね。無理のない範囲で、今の生活に少しずつ取り入れていってほしいと思います。
プロフィール
- 野井真吾
- 日本体育大学教授。学校保健・教育生理学・体育学・発育発達を専門領域として、子どものからだや心に関する研究を続けている。主な著書に「からだの<おかしさ>を科学する」(かもがわ出版)、「子どものケガをとことんからだで考える」(旬報社)など。