小学校英語の最前線 第2回【後編】物語を聴いて語って、英語力を育む授業(東京都品川区立小山台小学校)
青山学院大学教授のアレン玉井光江先生が考案した、物語をとおして英語を学ぶ方法で1年生から英語学習を行う品川区の小山台小学校。前回は、実際の授業の様子をご紹介しました。今回は、アレン玉井光江教授に「Joint Storytelling(ジョイント・ストーリーテリング)」の土台となる考え方、小山台小の変化について伺いました。
青山学院大学教授
アレン玉井光江先生
子どもたちが英語を使いたくなる授業を
幼児が母語を覚える過程を考えてみると、保護者など周囲の人との自然なやり取りの中で、言葉を習得していきます。わかる言葉から類推し、文脈を理解していくのです。英語を身に付けるときも同じだと私は考えています。
そこで、物語をとおして意味ある文脈で英語を教える指導法「Joint Storytelling(ジョイント・ストーリーテリング)」を考案しました。教材は『ももたろう』『大きなかぶ』『うさぎとかめ』など、誰もが知っている昔話です。それらの昔話をチャンツや替え歌を織り交ぜながら、各学年の子どもたちがそれぞれ発話できるレベルに書き直します。授業では各シーンの絵を見せながら、教師が物語を語り、子どもたちに発話させていきます。子どもたちはストーリーの概要を知っているため、なんとなくですが、英文の意味を理解できるのです。
教材はアレン先生が各学年に合わせて独自に作成したもの
動作をつけながら声を出させることで、自然に言葉が出てくるようになります。ただ、6年生になると104センテンスもあるため、すぐに言えるほど簡単ではありません。しかし、小山台小の子どもたちは「スラスラ言えるようになりたい」という意欲を持っているため、物語を自分たちだけでも語れるようになりました。英語を発話することで、聴く力も育てられ、英文を読む力、そして書く力も養われていきます。
物語の中には生活の中で使える表現をちりばめています。たとえばある子は、給食のカレーのおかわりをしようと思ったのにもうなかったという場面で、授業で習った表現の「I don"t believe this!」というフレーズが自然に出てきたそうです。意味のある文脈で言葉を学んでいけば、自然と英語が口から出てくるようになるのです。
先日、研究発表会を見に来た先生から「言わされているのではなく言いたいから言っているということが子どもたちの表情から見て取ることができました」と言っていただけたのは、とてもうれしかったですね。
小山台小の子どもたちの変化
長年の英語指導の経験から、物語を使って大量の英語を与えても、「子どもたちは十分理解してくれる」という自信がありました。しかし、小山台小で私が指導にかかわれるのは週1回ですから、全学年で担任の協力が必要で「ジョイント・ストーリーテリング」の授業を行うようになるまでは、担任の先生方にとっても大変な道のりでした。
私が小山台小学校で指導を始めたときに、鍵になったのは子どもの変化でした。先生や保護者のかたも最初は不安だったと思います。ただ、ねばり強く指導していれば、子どもたちが「わかった!」という瞬間が見られるのが「ジョイント・ストーリーテリング」のだいご味です。
子どもの変化を校長先生が見てくださり、私の指導法を評価してくださったからこそ、先生たちも子どもたちも私を信じてついてきてくださったのだと思います。今ではどの子も「難しいけど、がんばる」と前向きに英語の授業に取り組んでくれています。
また、校長先生の方針を支援する保護者や地域の方々のサポートがあったからこそ、小山台小の独自の英語の授業が成り立っているのだと思います。
アレン先生の問いかけに積極的に答えようとする子どもたち