茂木健一郎先生(脳科学者)が語る、「読書が脳に与えるいい影響」とは【第3回】

前回に引き続き、脳科学者の茂木健一郎さんに読書と脳科学の関係について伺いました。今回は、読書で鍛えた言葉の力が生む効果について教えていただきます。

言語能力を鍛えると実生活に役立つ

脳の成長には、インプット・アウトプットの両方が大事です。本を読んで心を動かされるのが「感覚性の学習」、思っていることを話したり書いたりするのが「運動性の学習」で、両方のバランスが取れた状態で発達するのが望ましい。ところがたいていの場合、運動性の学習が遅れがちなんです。たとえば音楽好きで耳が肥えている人はたくさんいますが、高いレベルで演奏できる人は少ないですよね。音楽の場合はそれが普通です。でも、言葉はふだんの生活の中で話したり書いたりするものなので、すべての学習の中で、運動性と感覚性のバランスがいちばん取りやすいんです。しかも、生きるうえでとても役立ちます。
言葉づかいの感覚ってとても大事ですよ。小泉元首相がなぜあんなに長く政権を保っていたかというと、彼の言葉の力によるところが大きいと思います。たとえば、力士の貴乃花が優勝したときの名セリフ「感動した!」のタイミングなんか、見事でしょう。
読書は子ども時代だけの問題ではありません。人間関係において、相手の立場や状況を考えて、その場で最適なものをアウトプットしていける。しかも自分らしさをそこに出していける能力はとても大事。それには、読書で語彙(ごい) や言語感覚を培っておく必要があります。それに、どういう文章を書けるかでその人の伸び方が違ってきます。企画書を書くにしても、プレゼン(発表)をするにしても、説得力がないと成功はおぼつきませんよね。



入試で本物の知性が試される時代に

大学入試でも、話す力・書く力は重要です。アメリカの有名大学の論文テストでは、たとえば「ロボットと宇宙人のどちらに育てられたいですか」というような問題が出て、それに対する自分の意見を理路整然と書かなくちゃいけない。それをアドミッションオフィス(入学管理局)の人が読んで採点するんですよ。また、口頭試問でも突拍子もないことを聞かれます。たとえば、ケンブリッジ大学の問題は「氷の浮いた湖で泳ぐ鳥の脚はなぜ凍らないのか」。オックスフォード大学の問題は「植物はなぜ歩かないのか」。数人の教授に囲まれた状態で2~3時間も議論します。教授たちが時々助け舟を出してくれるんですが、どういう受け答えをしたかで合格か不合格かが決まるんです。そんなの事前に準備できないですよね。でも、植物という生き物の生存戦略とか、動物の筋肉の中にあるアクチンやミオシンというタンパク質が実は植物の中にもあって、それはこんな働きをしているとか、幅広い知識があれば何かしら言えることが増えます。アドミッションオフィス入試というと、日本では「学力を問わない入試」というようなイメージがありますが、本当はそうではありません。本物の知性を試される場なんです。

日本の大学入試も徐々にそういう方向に行くような流れになってきているので、もっと子どものころから話す力・書く力を育てることを重視すべきだし、ますますさまざまなジャンルの本を乱読することが大事になってくると思います。

次回は、読書嫌いな子どものために保護者ができることを教えていただきます。

『脳を鍛える読書のしかた。』
<マガジンハウス/茂木健一郎(著)/840円=税込>


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プロフィール



脳科学者。東京大学卒業、同大学院修了後、ケンブリッジ大学を経て、現在ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。専門の脳科学、認知科学を生かして各種メディアで活躍。著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)など。

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