通知表、意外と知られていない作成の《目的》 ‐渡辺敦司‐

いよいよ今年もあとわずか。3学期制の学校では、2学期の通知表をもらって、いよいよ冬休みですね。通知表といえば、横浜市で記載ミスを防ぐため教育委員会が保護者などの事前確認を小・中学校に求め、それが報道され批判を浴びると撤回したということがニュースになっていました。「成績を決めるものなのだから、しっかりしてほしい」と思ったかたもいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、「成績を決める」ということには誤解があります。通知表とはどういうものか、一般にはあまり知られていないナゾがあるのです。

実は、通知表は作る必要がない……と言ったら驚くでしょうか。実際に作らない学校は、まずないと思います。ただ、通知表を作って渡すことが法律などで義務付けられているわけではありません。
学校に作成の義務があるのは「指導要録」です。指導要録は、児童・生徒の出席状況や成績、健康状態などを記載した、学校の公式記録です。単に記録し保存するだけでなく、転学や進学した学校にも抄本か写しを送ることが義務付けられています。何のために記録するかというと、外部に対して証明する際の原簿という役割もありますが、一番重要なのは、先生たちが以後その児童・生徒の指導に役立てるためです。

さて、通知表は、原簿である指導要録を基に作成されます。指導要録が先生たちのためのものであるのに対して、通知表は先生の指導の一環として、児童・生徒の課題を本人や保護者に伝えることで、その後の勉強などをがんばってもらうためです。そのため、通知表の様式や伝え方も、各学校で工夫を凝らしています。
だから通知表の事前確認をした場合でも、評定に抗議をしたところで、くつがえることはありません。公式記録はあくまで指導要録だからです。

横浜市の場合、事前確認によって市立小・中学校の約4割に当たる187校で928件のミスが見つかったといいます。多くはパソコンの操作ミスだったそうです。昔は手書きが当たり前でしたが、最近では事務の省力化のためパソコン入力が主流になりつつあり、それだけに横浜市に限らず各地の自治体や学校でミスがしばしば起きています。
ミスの防止はしっかりやってもらう必要がありますが、それよりも大切なのは、通知表の記載内容を基に、その子にとって今の課題は何かを明らかにし、その後の勉強や活動をがんばるきっかけにすることです。「通知表は児童・生徒や保護者とのコミュニケーション手段」という先生もいます。横浜市が新たな防止対策の中で「面談などの際に、学校と保護者が共に子どもを育むという観点から、学習状況等について情報交換することは、今後も継続していきます」と言っているのも、そういう意味でしょう。

評定に一喜一憂するだけでなく、その子の成長の跡を確かめ、さらなる成長のきっかけにするよう、学校と家庭が協力して子どもを育んでいくことが期待されます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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