クラウドで学校と家庭等との学習連携を 文科省と総務省が研究-斎藤剛史-

明日の授業を考えていた太郎先生は、タブレット(多機能携帯端末)を取り出すと、子どもたちそれぞれの学習進度に合わせた教材を選んだ。同時刻、次郎君は自宅で太郎先生から送られてきた教材をタブレットで見ながら明日の予習を始めた。一方、教育産業の技術者である三郎さんは、太郎先生と次郎君たちのデータをもとに、新しい教材ソフトを開発していた……お正月の初夢のような話ですが、文部科学省と総務省は現在、ICT(情報通信技術)を活用した新しい教育体制の構築を研究しています。両省が目指す未来の教育体制とはどのようなものなのでしょうか。

子どもたち一人ひとりにタブレットを持たせて授業を行う取り組みは、佐賀県武雄市などを中心に新聞やテレビなどのマスコミでも大きな話題となっています。ただ、今のところ課題も山積しており、全国に行き渡るような取り組みにはなっていません。それでも、これからの時代を生きる子どもたちにとって、学校の授業は子どもたち自身が主体的に学習する場でなければなりません。次期学習指導要領の改訂に当たり、教育内容の見直しだけでなく、「アクティブ・ラーニング」(能動的学習)の導入など教育方法の改善が強調されているのも、これが理由です。そして、そのためにはICTの活用は不可欠です。

文科省は「先導的な教育体制構築事業」(外部のPDFにリンク)を2014(平成26)年度から開始し、ICTを活用した協働型・双方向型の授業への変革を目指しています。また、文科省と連携する形で総務省でも「先導的教育システム実証事業」を進めています。そこで両省の事業のキーワードとなっているのが「クラウド・コンピューティング」です。個別のコンピューターで管理されていたデータやソフトをインターネット上で管理するクラウドは、ICT活用の幅を大きく広げました。各学校のデータや教材ソフトなどをクラウドに集積し、それによって学校間、学校種間、学校と家庭、学校と地域・民間教育事業者などの壁を越えた連携を可能にしようというのが両省の目標です。
総務省はこれを「ICTドリームスクール」(外部のPDFにリンク)と名付け、クラウドの環境やデータの様式を標準化することで、いつでも、どこでも、子どもたちが勉強できる「シームレスな学習環境」を構築することを理念に掲げています。いろいろな学校で開発された優れた指導方法や教材が、すぐに全国の学校で利用できるようになるかもしれません。両省は現在、福島県新地町・東京都荒川区・佐賀県(武雄市など)を研究地域に指定しています。

学校・家庭・地域・民間事業者が、タブレットをとおしてつながるようになった時代に、学校の授業はどうなるのでしょうか。少なくとも教師が一方的に知識を教えるだけという授業は成り立たなくなるでしょう。タブレットを利用した学習は、まだ物珍しさが強調されがちですが、その先には学校や授業の在り方を根本から変える可能性もあるようです。お正月のひととき、未来の学校がどうなっているのか想像してみてはいかがでしょうか。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

子育て・教育Q&A