18歳で選挙へ!?  新科目「公共」、これからの高校生に必要なものは-斎藤剛史-

学習指導要領の全面改訂が中央教育審議会に諮問されました。その中で検討の一つとなっているのが高校における新科目「公共」の創設(国家及び社会の責任ある形成者となるための教養と行動規範や、主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力を、実践的に身に付けるための新たな科目等の在り方)です。新科目創設にはさまざまな狙いがありますが、その一つに成人年齢を現行「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げようという動きに対応することがあります。実は2016(平成28)年の次期参院選挙から18歳以上で投票できるようになる可能性も高まっています。

文部科学相による中教審への諮問理由などを見ると、高校での新科目「公共」の創設の理由は大きく分けて、(1)小中学校で道徳を「特別の教科」とすることに合わせて、高校でも規範意識などを身に付ける道徳教育の強化を図る必要があること(2)国民投票権が「18歳以上」に引き下げられるなどの議論に対応して、18歳で「大人」となるための教育をする必要があること……などが挙げられます。現在、高校では道徳教育は学校の教育活動全体をとおして行うほか、公民科の「現代社会」や「政治・経済」などで社会の仕組みなどを学習することになっていますが、必ずしも十分とは言えないのが実情です。

憲法改正の国民投票権年齢は、2014(平成26)年6月に成立した改正国民投票法により18(同30)年6月21日以降、「18歳以上」となることが決まっています。ただし、現実的に国民投票が実施される可能性は低いため、実際に18歳で選挙権などまだ遠い先の話と思っている人も少なくないでしょう。ところが、国民投票権年齢の引き下げに対応して自民・公明・民主などの与野党7党(当時)は2014(平成26)年11月19日、国政選挙権を「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案を衆院に共同提出しました。改正案は衆院解散のため廃案となりましたが、2015(平成27)年の通常国会に再提案される可能性が高く、仮に成立したら、早ければ16(同28)年の参院選から18歳以上による選挙が実現する見通しです。つまり、一部の高校生を含む18歳以上の若者が国政選挙に参加するのは、もしかしたらすぐ目の前なのです。

選挙権年齢が引き下げられれば、それに合わせて民法などの成人年齢を「18歳以上」に引き下げる議論が加速することはほぼ確実でしょう。そうなれば、これからの若者は高校卒業と同時に法的な「大人」として社会の荒波にもまれることになるかもしれません。たとえば現在の子どもたちが高校卒業と同時に、クレジットカードを作ったり、金融業者からお金を借りたり、さまざまな法的契約を結ぶことを自分の意思だけでできるようになるとしたら、どうなるでしょうか。高校の新科目「公共」の背景には、近い将来18歳で選挙権を持つだけでなく、法的にも「大人」の責任を背負うことになるという現実的な課題に早急に対応しなければならないという切実な理由があると言えそうです。高校の新科目に関する議論について、保護者や一般社会はもっと注目していく必要があるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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