地域性を生かした学びで、算数の計算法を体感させる授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回紹介するのは、山形県のAM先生が小学5年生に行った算数の授業です。
子どもたちが苦手と感じることが多い「割合」の授業です。米どころ庄内平野という地域性を生かして、刈り取ったあとの田んぼに残った稲穂「落ち穂」を使って、「割合」だけでなく、「単位当たりの量」「平均」「面積の求め方」を「役に立つ!」と体感させていきます。つまり、頭や紙の上だけでなく、算数を実際に「使う場面」を体験させる授業です。

「落ち穂」をテーマにしたのは、AM先生と子どもたちが学校のそばにある、白鳥の越冬地「スワンパーク」に行ったことがきっかけでした。その時、給食で残ったパンを持って行って、餌付けをしたそうです。しかし、その後、新聞に「餌付けは、過保護で、白鳥の餌を探す能力を衰えさせる」という記事が載りました。クラスは、餌付けについて賛成派と反対派に分かれて議論が起きたのです。
議論の中で、「白鳥の餌はパンだけでないのでは?」という意見が出ました。そして、「もし、たくさんの落ち穂があれば餌付けはしなくてもよいのでは?」という仮説が出たのです。ちなみに、この地方で一冬に白鳥が食べる量は、540トン。これだけの落ち穂があるのかが焦点となりました。

そこで、AM先生は、今回の授業を思いつきます。
まず、学校で稲刈りした田んぼにクラスで行き、この1枚の田んぼに、どれくらいの落ち穂があるのかを調べることにしました。
先生は、「みんな拾え!」「徹底的に拾え!」「きちんと拾え!」と指示します。そう、残らず、すべて拾うことが、落ち穂の量を知るために欠かせないからです。
でも、拾い始めて10分後、子どもたちから「見落としがある!」「全然終わらない!」という声が出始めました。そして、20分たったところで、「絶対に無理」という声が多数に……。
ちなみに、この1枚の田んぼの大きさは、100m×27mです。
ここで先生は、子どもたちを集めて、「では、どうしよう?」と相談しました。
AM先生の授業の特徴は……
・子どもたちの中ではっきり問題点が出てくるまで「待つ」
・「解決の糸口は、子どもたちのアイデア」からにする
この2つができるのは、それぞれ子どもたちの個性や資質を把握しているからです。「おそらくこの子からアイデアが出るだろう」と想定できないとできない授業です。

この日、子どもたちから出たアイデアは、班ごとに8つに分かれ、エリアを決めて調べるというものです。エリアの大きさは、1平方mとしました。8つの班で調べた「落ち穂」の量をこの田んぼの面積に積算すれば、「落ち穂」の量は推定できるというのです。
でも、ある班が、「たくさん集めたい」と3か所で集めたうえに、集めた「落ち穂」を全部同じ袋に入れてしまったのです。
ここで、AM先生は、クラス全員を集めました。
ある班が3か所を調べたが、同じ袋に入れてしまった。その合計は63gになった。どうしよう? やがて子どもたちは「3で割ればよい」という考え方に行き着きます。そして、この時は、「これが平均か!」という声が出ました。つまり、「平均」を「習っておいてよかった!」と感じた瞬間です。
そして、各班が調べた「落ち穂」の量を足し、班の数で割って、平均値を出しました。結果は、39gです。
そして……

 2700平方m  ×      39g       =105300g (105kg)
(田んぼの面積)   (1平方mの落ち穂の量の平均)

つまり、この田んぼの「落ち穂」の量を105kgと予想しました。

AM先生のすばらしいところは、このあと、子どもたちを連れて農協に行ったところです。この予想した「落ち穂」の量が正しいのかを確かめるためです。
農協の試算では、5%が「落ち穂」になるそうです。
ちなみに、2,700平方mだとおよそ落ち穂は90kgということでした。
農協によると、子どもたちが予想した105kgは誤差の範囲内で、ほぼ合っているということでした。子どもたちの顔は、ちょっと誇らし気でした。

最後に、庄内平野の落ち穂の量を計算します。
先生は、100個のマスが書かれた模造紙を用意し、5マス分を塗りつぶし5%の意味を伝えます。そして、これが「落ち穂」の量であることも伝えます。一方、塗りつぶさなかった残りの95%は収穫した米です。ちなみに、庄内平野でとれる米の量は、15万1,700トンです。
では、「落ち穂」の量は?
ここでも先生は、子どもたち自身の力を活用します。班で考え、子ども同士で教え合うことで、全員が納得できるための工夫です。子ども同士で教え合うと、納得できる確率が高くなるからです。ただ、その前提に、わからない人が聞ける雰囲気ができていないとダメなのですが……そんな状況を作り出せるのは、授業の達人の条件のひとつです。
全班が発表し、先生が再度まとめて、全員が納得したのは……

151700÷95×5=約8000トン

庄内平野の「落ち穂」の量が出ました。
それは、白鳥が一冬を越すのに必要な540トンをはるかに超える量でした。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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