いのちの大切さを育む「がん教育」【後編】

子どもたちの「がん教育」について、「がん教育」の第一人者であり、東京大学医学部付属病院 放射線科准教授の中川恵一先生に教えていただきます。



「がん教育」の現場で教えていることとは?

「がん教育」を行う対象年齢は、中学生をメーンとした小学校高学年から高校生まで。より正しく理解するにはいろいろな知識があったほうが望ましいので、年齢はなるべく上のほうがよいと思っています。私は6~7年ほど前から、特に中学生を中心に30か所以上で「がん教育」を行ってきました。
授業の中では、まず子どもたちにがんがどんなものなのかを教え、理解をしてもらうことから始めます。がんについてわからないと恐怖心が高まりますが、がんが治る確率は約6割、早期がんなら9割以上だということ、またがんは防げるということを教えると、授業の前は「怖い病気」というイメージだったのが、授業のあとは「がんは防げるんだ」「自分たちでコントロールできるんだ」と安心するようです。
また授業では、自分だけではなく周りの大切な人たちをがんから守るために、自分は何ができるかを考えてもらっています。子どもたちからは「食事をバランスよく食べさせる」「検診に行くように言う」などという意見が出ます。



子どもたちはどう受け止めているのか?

最初に「がん教育」を学校でやろうと考えた時、周りから「そんなことをしたら子どもがノイローゼになる」などと言われました。でも、結果的にはまったく問題ありませんでした。少なくとも、私がやってきたなかで、後日子どもたちが不安定な状況になったなどというケースはありません。授業を受ける子どもの中には、肉親をがんで亡くした子どもや小児がんの子どももいると思います。その子たちには、つらくなったら外で休んでもよいと言っていますし、できるだけ私がその子のそばに行ってケアをするようにしています。
中にはこんな子どももいました。保護者をがんで亡くした子で、「がん教育」の授業があると聞いて複雑な心境になったそうです。話を聞くのが怖いような気がしたけれど、でもやっぱり聞こうと思って授業に出たそうです。そうしたら、がんがどんな病気なのかを知ることで恐怖心が消えて気持ちが楽になった、聞いてよかったと思ったと言うんです。「がん教育」には、がんという病気から子どもたちを守るだけではなく、周りの大切な人に対する気持ちを深めたり、恐怖に立ち向かう勇気を出したりするなど、さまざまな成長のチャンスがあると思います。子どもにがんを教えると怖がると考えるのは、大人たちが勝手に妄想しているだけです。子どもは大人が思うほど弱くない、子どもにがんを教えてもちゃんと聞けるものなんだ、それを保護者のかたは知っていてほしいですね。

私は、せっかくがんのことを教えるのなら、がんのしくみや予防法だけではなく、命について死についてまで考えてもらいたい、いじめや殺人などにも通じるようなことを教えたいと思っています。過去にも未来にも、一人として同じ人間は存在しません。これは本当に素晴らしいことです。だから尊重し合う必要がある、限りある命を一生懸命生きなくてはいけない、「がん教育」はそういうメッセージにもつながると思っています。


プロフィール


中川恵一

東京大学医学部卒業後、同学部放射線医学教室入局。東京大学医学部放射線医学教室助教授を経て、同大学医学部附属病院放射線科准教授、緩和ケア診療部長。著書に『がんのひみつ』(朝日出版社)など多数ある。

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