大学入試改革は高校・大学の「教育」を変えるため‐渡辺敦司‐

大学入試センター試験を廃止して新設する共通テストの在り方を検討してきた中央教育審議会の論議が、12月中に予定される答申を目指して佳境を迎えています。報道も多くなっているので、気になる保護者の方々も多いと思います。しかし、中教審は入試のことだけ検討しているわけではないことに、注意が必要です。むしろ高校と大学の教育を変えるために入試を変えようとしていると言っても過言ではありません。

中教審の高大接続部会は、10月下旬に開催した会合で答申案を大筋で了承しました。それによると、高校版・全国学力テストである「高等学校基礎学力テスト」(仮称)は2019(平成31)年度から、センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」(同)は20(同32)年度から段階的に実施するとしています。いずれも複数回の実施を想定しており、基礎学力テストが高校2年生から受けられることになれば、今の小学6年生(2021<平成33>年度以降に大学入学)が両テストの対象<第1号> となる見通しです。

ところで新テスト導入に伴う大学入試をめぐっては、「考える」力をみる入試などと報道されています。
具体的には、
(1)「教科型」で出題される基礎学力テストでは、各教科の「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を評価する
(2)「教科型」に加えて「合教科・科目型」と「総合型」の問題も組み合わせて出題する学力評価テスト(将来的には教科型を廃止)では、「知識・技能」を活用して「思考力・判断力・表現力」を評価する
(3)各大学の個別選抜では、大学の個性に合わせて小論文や集団討論、面接などを組み合わせ、思考力・判断力・表現力とともに、両テストでは測れない「主体性・多様性・協働性」も評価する
という3段構えです。いずれも知識・技能が軽視されているわけではありませんが、(1)、(2)、(3)と積み重ねることで活用力や主体性にウエートが移っていくイメージです。

ここで想定されているのは、まず高校段階で必要な知識・技能や思考力・判断力・表現力などをしっかりと身に付けてもらい、それを大学で更に伸ばそうという考え方です。新たな学力観として想定している「主体性・多様性・協働性」「思考力・判断力・表現力等」「知識・技能」(現在は「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学習意欲」)を高校・大学を通じて育成する教育に転換するためには、入試の在り方も変えなければいけないというわけです。

新テストの対象が今の小6からといっても、中学生以上にも無関係ではありません。各大学の個別試験に関しては、答申を受けて2014(平成26)年度中にも文部科学省が大学入学者選抜実施要項を見直し、随時導入を開始する見通しです。また、新テストのプレテストは早ければ2017(平成29)年度中にも行われます。何より学習指導要領の改訂(高校は2022<平成34>年度入学生から全面実施の見通し)を待たずに新テストを実施しようとするところに、高校・大学の教育改革を急がねばならないという国の危機感が見て取れます。そうした入試改革の先取りに伴って、高校の教育も徐々に変わらざるを得なくなることでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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