教科「道徳」2018年度から それまでは「私たちの道徳」持ち帰りも‐渡辺敦司‐

中央教育審議会が、小・中学校の「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」(仮称)に格上げするよう、下村博文文部科学相に答申(外部のPDFにリンク)しました。実施時期は明記されていませんが、正式な教科として授業が始まるのは教科書の発行を待ってからの2018(平成30)年度からとなる見通しです。それまでは既に配布されている文部科学省著作の道徳教育用教材「私たちの道徳」を使用し、先取り実施を行うことにしています。

「特別の教科」というのは、以前の記事で紹介したとおり、道徳の授業が授業時間にとどまらず、ほかの教科や学級活動、学校行事など、学校の全教育活動の中で行われる道徳教育の「要」でもあるという、まさに特別な性格を持っているからです。また、そうした性格の反映として原則的に学級担任が指導するのが望ましいこと、数値などによる評価はなじまないことなど、ほかの教科にはない側面があることからも「特別」とされました。
しかし現在の「道徳の時間」には、
・道徳教育の特質を生かした授業が行われていない場合がある
・発達段階が上がるにつれ、児童生徒の受け止めがよくない
・学校や教員によって指導の格差が大きい
といった課題があると答申は指摘。教科書をしっかり使い、学年別(小学校は低・中・高学年別)の目標や内容について、発達の段階や子どもを取り巻く環境の変化も踏まえ、体系的で効果的な示し方を工夫すべきだとしています。具体的には「正直、誠実」「公正、公平、正義」といったキーワードを活用して考えさせたり、情報モラルや生命倫理といった現代的な課題の扱いも充実させたりします。

2018(平成30)年度から実施の見通しというのは、検定教科書を導入するには、通常、
(1)教科書会社による「編集」
(2)文科省による「検定」
(3)教育委員会による「採択」
でそれぞれ1年、計3年かかるためです。それまでは、2014(平成26)年度に全面改訂した「私たちの道徳」(旧「心のノート」)を教科書代わりに使って授業を行うこととしています。文科省の調査によると「私たちの道徳」は小学校の99.5%、中学校の98.4%で使用されていますが、下村文科相は「PTA関係者に聞くと、学期に1回しか使われていないなど実態と乖離(かいり)している」(10月17日の衆院文部科学委員会での答弁<動画>)と見ています。

文科省は、家庭や地域と連携した道徳教育を進めるため、「私たちの道徳」を家庭に持ち帰らせるよう、教育委員会などに3度にわたる通知を出しています。「私たちの道徳」には家庭や地域で活用できるよう、話し合ったことを書き込んだり、家族が書き込んだりする欄が設けられているからです。調査によると小学校の80.9%、中学校の72.7%で家庭に持ち帰るよう「全ての学級で指導している」のですが、「忘れ物や紛失を防ぐ」「必要なページを印刷して持ち帰らせていた」といった理由で持ち帰りを指導していない学校や学級もありました。
総会で答申を受け取った下村文科相は「道徳は学校だけの問題ではない。第一義的には保護者が教育に責任を持つものであり、『私たちの道徳』も保護者に読んでいただきたい。文科省も答申を契機として家庭・地域との連携を強化し、社会全体で子どもたちの『生きる力』の育成に力を尽くしたい」と表明。家庭や地域での活用事例も盛り込んだ教師用指導資料も2014(平成26)年度中に作成する予定です。

道徳教育の強化は安倍首相も第1次内閣以来、力を入れてきた課題です。どうやら学校の中だけにとどまる話ではないようです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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