楽しく覚える
百人一首!
暗記のコツや
「決まり字」を解説

2023.09.15

広く親しまれている、『小倉百人一首』。
古典に親しむためには、とてもいいきっかけになる教材です。

けれども、『百人一首』ときくと、ちょっとハードルの高さを感じるかたもいらっしゃるかもしれません。
「『百人一首』を覚えてきなさいと言われた」
「こんなにたくさんの歌、しかも古典……どうやって覚えればいいの?」
なんて悩んでしまうことも。

そこで今回は、楽しく『百人一首』について暗記するコツをお伝えします。『百人一首』に興味を持ったかたや、かるたに打ち込んでいる小学生のお子さまがいらっしゃる保護者のかたはぜひ参考にされてください。

『百人一首』の概要とルール

『百人一首』と言えば、よくイメージされるのが競技かるたです。競技かるたでは、『百人一首』に選ばれている和歌が書かれた札を一対一で取り合います。

まず、取り札100枚のなかからそれぞれ無作為に25枚選び、自分の前に並べます。(自分の前を自陣、相手の前を相手陣と呼びます)それぞれ上の句(歌前半・五七七)と下の句(歌後半・七七)に分け、読手が読み札である上の句を読み、競技者がそれに対応する下の句の取り札をいかに早く取れるかを競います。

相手陣の札を取った場合は、自陣の札のどれかを相手陣に置きます。そうして、自陣に札がなくなったほうが勝ちというルールです。

相手に勝つためには、反射神経の素早さだけではなく、どの札が読まれたか特定する「決まり字」を覚える、戦略的に札を並べるなどの工夫が重要で、とても奥が深い競技です。

各かるたの読み方・解説付き 代表的な百人一首 一覧

『百人一首』の中から一首ずつ、意訳/現代語訳や解説、作者などをイラスト付きで紹介します。
また、かるたに役立つ決まり字や語呂合わせもまとめていますので、ぜひご参考にされてください。

代表的な百人一首

親子で楽しく 百人一首を
楽しく覚えるコツは?

競技かるたで遊ぶためには『百人一首』に収録された和歌を全て覚えなければと思ってしまいがちです。
しかし、馴染みのない古語で書かれた和歌を、順番に一言一句覚えるのはとても大変です。

まずは、暗記ではなく楽しむことを目標に、『百人一首』に触れることをおすすめします。

Point01

かるたに慣れるには「坊主めくり」

最初におすすめしたいのが、漢字や古語になじみがなくても、親子で一緒に楽しめる「坊主めくり」です。
「坊主めくり」は、順番に札を引いていき、札に描かれた絵によって手札を増減させて、最終的な手札の多さを競う遊びです。

まず『百人一首』かるたの読み札をシャッフルし、裏向きにして積みます。自分の番になったら、積んだ札から1枚めくって場に出します。場に出したかるたに描かれた人物が「殿(男性が描かれた札)」であれば札を自分の手札として持ち、「坊主(坊主が描かれた札)」であれば持っていた自分の手札をすべて共有の場に出します。「姫(女性が描かれた札)」が出れば共有の場の札をすべて自分の手札にすることができます。最終的に手札が一番多かった人が勝者です。

「坊主めくり」にはローカルルールも多くあります。
例えば「坊主」の蝉丸の札を引いた人が最下位になる、全員が手札を全て捨てるといったルールを採用している地域も。公式に決まったルールがあるわけではありませんので、楽しめそうなルールを自分たちで作るのもよいかもしれませんね。

基本のルールはとても簡単なので、小さいお子さまがいらっしゃる場合は特に、ぜひ親子で「坊主めくり」を通してかるたに触れ、かるたに慣れていきましょう。

Point02

かるたに慣れたら自分の得意札を決めてみる

かるたにある程度慣れてきたら、自分の得意札を選んで競技かるたで対戦するとよいでしょう。

得意札とは、自分が試合で絶対に取ると決めている札のことです。『百人一首』に収録されている番号順に札を覚えるのではなく、自分の好きなものを得意札にすることで、覚えやすくなり、取りたいという気持ちも強まります。

漫画『ちはやふる』の主人公である千早は、自分の名前から始まる「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」という和歌を得意札にしていましたね。

得意札を選ぶ理由は何でもかまいません。札に描かれている絵や言葉のリズムが好きなものを選んでOK。迷ってしまう場合は、和歌を身近に感じられるものから入って考えるとよいでしょう。

例えば、競技かるたが題材になっている『ちはやふる』のような漫画を読んで、好きなシーンに出てきた和歌を選ぶ、和歌をイラスト付きで解説している参考書を眺めて印象的だったものを選ぶなどです。

Point03

勝負で勝つカギ! 一字決まりを覚える

競技かるたで素早く札を取るためには、いくつかテクニックがあります。ひとつが一字決まりの札を覚えることです。一字決まりの札とは、読み札の最初の一字だけ読まれれば取り札を探せる札のことです。

例えば、上の句「むらさめ の 露もまだひぬ まきの葉に」に対応する下の句は「霧立ちのぼる 秋の夕暮れ」ですが、上の句が「」で始まる和歌は一首しかないので、「」の音を聞いた瞬間に下の句を取ることができます。
一字決まりの和歌は後述の七首のみです。最初の文字を取って、「むすめふさほせ」の語呂で知られています。

 むらさめの 露もまだひぬ まきの葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
 住(すみ)の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな※
 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を あらしといふらむ
 さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ
 ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有り明けの 月ぞ残れる
 瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ

ちなみに、二字決まりの札は四十二首、三字決まりの札は三十七首あります。一字決まりでコツをつかむことはその他の和歌を覚える際にも役立つでしょう。

※紫式部の歌集や『百人一首』の本文では「夜半の月かげ」とされているが、かるたでは「夜半の月かな」で流通しているものが多い

Point04

慣れてきたら、語呂合わせ等でどんどん覚えていこう

競技かるたに慣れてきたら、語呂合わせ等で覚えて早く取れる札を増やしていきましょう。競技かるたではスピードが大事なので、上の句が読まれたらすぐに下の句を探せるよう、上の句の最初の数文字と、下の句の最初の数文字を繋げて覚えておくことが効果的です。
例えば、二字決まりの「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 々し夜を ひとりかも寝む」という歌なら、「あしなが」と覚えておき、「あし」が読まれた瞬間に「なが」から始まる札を探すという具合です。

Point05

和歌が詠まれた背景を知ってみるのも楽しい

競技かるたで素早く取ることに熱中していると忘れがちですが、元々和歌は人の心が動いた瞬間を詠んだものです。

人の心は、和歌が詠まれた千年前でも現代でも変わらない普遍的なもの。どんな場面でどんな人物が、どんな想いを込めて詠んだのか知ることで、和歌を遠い昔のよくわからないものではなく、身近なものとして理解できます。

例えば、先ほど一字決まりの札として紹介した「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな」という和歌は、『源氏物語』を手がけたことで知られる紫式部の和歌で、久しぶりに幼友達と会えたのに、その友達があわただしくすぐに帰ってしまった時に詠んだとされるものです。

せっかくお友達と会ったのにすぐ帰ってしまったもどかしさや名残惜しさは、現代でもなじみのあるものではないでしょうか。

この他にも、『百人一首』の世界には、切り返しのユーモアに富んだ歌や、和歌のテクニックをたくさん詰め込んだ歌、物悲しい歌から情熱的な歌まで魅力的な歌にあふれています。丸暗記するだけではもったいない、大人も子どもも楽しめる文学なのです。

挑戦してみよう!

百人一首を覚えたら、暗記できているかの確認や復習としてクイズに挑戦してみましょう。
それぞれの設問に対する解説もあるため、
より理解を深めるコンテンツとしてもご活用いただけます。

何問正解できるかな? 百人一首クイズ

まとめ

和歌は古典の世界では欠かせないコミュニケーション手段であり、古典文学の物語の中で重要な役割を持つものでもあります。また、和歌に触れて楽しいと思った経験は、今後古典学習に取り組む上でモチベーションに繋がります。
ぜひ楽しみながら、古典の世界への一歩を踏み出してみてください。

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イラストレーター

ぬまた こうたろう


執筆者

ゆき


株式会社プランディット 国語課

編集プロダクションの株式会社プランディットで、進研ゼミを中心に、小学校から高校向けの国語の教材編集を担当。
株式会社プランディット
1988年創業のベネッセ・グループの編集プロダクションで、教材編集と著作権権利処理の代行を行う。特に教材編集では、幼児向け教材から大学入試教材までの幅広い年齢を対象とした教材・アセスメントの企画・編集を行う。

監修者

たに ともこ


1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。