百人一首の覚え方
033
ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ
(紀友則)
上の句|ひさかたの ひかりのどけき はるのひに
下の句|しずこころなく はなのちるらん
2023/09/29
※イラストはイメージです
現代語訳
こんなにも日の光がのどかに降り注ぐ春の日に、どうして落ち着いた心もなく、桜の花は散っているのだろうか。
解説
上の句で詠まれた「おだやかな春の日の光」と、下の句で詠まれた「あわただしく散っていく桜」の対比が印象的な歌。桜の花びらが散っていくことを惜しむ心が感傷的に表現されています。
出典
古今和歌集語句解説
ひさかたの
「光」にかかる枕詞。日だけでなく、月や空にもかかる枕詞です。
のどけき
「のどかだ」「おだやかだ」という意味の形容詞「のどけし」の連体形。「光のどけき」で「日の光がのどかな」という意味になります。
しづ心
落ち着いた心。「しづ心なく 花の散るらむ」と、桜の花を「落ち着いた心がない」と人間のように表現する「擬人法」が使われています。
散るらむ
「らむ」は「どうして〜のだろう」という意味の推量の助動詞。「どうして桜の花は散っていくのだろう」という散り急ぐ桜を惜しむ気持ち、そこはかとない感傷が詠まれています。
作者紹介
紀友則(きの・とものり)(生誕年不明ー907年ごろ)
平安前期の歌人。
平安時代の和歌の名人である「三十六歌仙」の一人で『古今和歌集』の撰者
『土佐日記』を記した紀貫之のいとこにあたる。
平安時代の和歌の名人である「三十六歌仙」の一人で『古今和歌集』の撰者
『土佐日記』を記した紀貫之のいとこにあたる。
作者に関する逸話
長い間、出世が遅れていた紀友則。歌合で詠んだ和歌の巧みさが、出世のきっかけとなります。「初雁」をお題とし、秋になり北から渡って来た雁を詠むというテーマで次の和歌を詠みました。
春霞 かすみて去にし 雁がねは 今ぞ鳴くなる 秋霧の上に
現代語訳)春霞の向こうにかすみながら飛んでいった雁が 今また飛来して鳴いているよ、秋霧の上で。
現代語訳)春霞の向こうにかすみながら飛んでいった雁が 今また飛来して鳴いているよ、秋霧の上で。
秋がテーマであるところ、「春霞」とはじめたことで「春の歌では?」と笑う人もいる中、春から秋の季節のうつろいをも見事に表現。その巧みさが藤原時平を驚かせ、出世の機会を得たと言われています。
決まり字
- 上の句
- ひさかたの 光のどけき 春の日に
- 下の句
- しづ心なく 花の散るらむ
「ひさ」が決まり字の二字決まりです。
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語呂合わせ
ひさしづ
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。