百人一首の覚え方
057
めぐりあひて 見しやそれとも
わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かげ
(紫式部)
上の句|めぐりあいて みしやそれとも わかぬまに
下の句|くもがくれにし よわのつきかげ
2024/5/31
※イラストはイメージです
現代語訳
久しぶりにめぐり会えたのに、あなたかどうかも見分けがつかないほどの短い時間で帰ってしまわれた。
まるですぐに雲に隠れてしまった夜中の月のように。
まるですぐに雲に隠れてしまった夜中の月のように。
解説
幼いころを共に過ごした気の合う友人と久しぶりに会えたのに、あっという間に再会の時間がすぎてしまった寂しさを詠んだ歌。思い出話も十分にできないほどわずかな時間でしかなかったことを、雲間にすぐに隠れてしまう夜中の月になぞらえています。
出典
新古今和歌集語句解説
めぐりあひて
幼なじみにめぐり会ったことを月に託して示しています。「月」と「めぐる」は縁語(関係が深く、一緒に使うことで表現に味わいや深みをつけるもの)です。
見しやそれとも
「見し」は動詞「見る」の連用形、「し」は過去の意味を表す助動詞「き」の連体形。「や」は疑問を表す係助詞。「それとも」の「それ」は表向きは「月」を表していますが、幼なじみのことも重ねています。
わかぬまに
区別がつくという意味の動詞「わく(分く)」の未然形「わか」に、「〜ではない」という意味の打ち消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」、時を表す格助詞「に」。「わかぬまに」で「見分けがつかないうちに」という意味になります。
雲がくれ
月が雲に隠れることと、幼なじみが隠れる(=帰ってしまった)ことを表しています。
夜半
夜中・夜ふけ
月かげ
藤原定家(ふじわらのていか/さだいえ)の「百人秀歌」や多くの注釈書の本文では「月かな」ですが、「紫式部集」「新古今和歌集」や「百人一首」の古い写本にある「月かげ」を採用しました。
作者紹介
紫式部(むらさきしきぶ)(生没年不詳:970年から978年の間に生まれ、1019年頃に亡くなったなど諸説あり)
平安中期の作家で「源氏物語」「紫式部日記」を著した。歌人としても優れ、平安中期の和歌の名人である「中古三十六歌仙」の一人。夫に先立たれた後、一条天皇の中宮(皇后のこと)である彰子に仕えました。
作者に関する逸話
幼いころから才女として知られた紫式部。弟が漢籍(漢文で書かれている書物)を習っているのを横で見聞きしてすべて覚えてしまうほどだったと伝えられています。あまりの賢さに父親は、男子だったら出世していただろうに……と惜しんでいたほどだったんだとか。
世界最古の長編小説「源氏物語」は、夫の藤原宣孝との死別後に書かれたもの。当初は、親しい人たちの間で読まれていただけでしたが、次第に評判になり多くの貴族も読むようになったと言われています。
決まり字
- 上の句
- めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに
- 下の句
- 雲がくれにし 夜半の月かげ
「め」が決まり字の一字決まりです。
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語呂合わせ
め、くもがくれ
目に雲がかかって隠れている様子を思い浮かべると覚えやすいです。
目に雲がかかって隠れている様子を思い浮かべると覚えやすいです。
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。