百人一首の覚え方

025
にしはば 逢坂山あふさかやまの さねかづら 
ひとにしられで くるよしもがな
三条右大臣さんじょうのうだいじん

上の句|なにしおわば おうさかやまの さねかずら

下の句|ひとにしられで くるよしもがな

2024/5/31

※イラストはイメージです

現代語訳

恋しい人に会う(逢う)という「逢坂山」、ともに寝るという「小寝葛さねかずら」が、その名のとおりならば、そのつるをたぐり寄せ、人に知られずにあの人のところに訪ねて来る(行く)※方法があればよいのになあ。
※解釈には諸説ありますが、この当時の「来る」は「行く」と同義という説を採用しています。

解説

忍ぶ恋の苦しい気持ちをんだ歌。誰にも知られずに恋しい人と会う方法がほしいと願う思いを3つの掛詞かけことばで巧みに表しています。掛詞の1つ目は「逢坂」と「逢ふ(=恋人に会う)」、2つ目は「さねかづら」と「小寝さね(一緒に寝ること)」、3つ目は「来る」と「繰る(=手繰り寄せる)」。「逢坂山」で「さねかづら」を見て、恋しい人への狂おしいほどの気持ちが募っている作者の姿が浮かんでくるようです。実物の「さねかづら」と共に女性に贈られた歌なのかもしれませんね。

出典

後撰和歌集ごせんわかしゅう

語句解説

名にし負はば

「名に負ふ」は「〜という名をもつ」という意味。「し」は意味を強める強意の副助詞。「名にし負はば」で「〜という名を持っているのであれば」となります。

逢坂山

現在の京都府と滋賀県の境にあった山で、「逢坂の関」という関所があったところ。「逢ふ」との掛詞になっています。

さねかづら

ツル性の植物。一緒に寝るという意味の「小寝さね」の掛詞になっています。

くるよしもがな

「くる」は「来る」と「繰る(=手繰り寄せる)」との掛詞。「よし」は方法のこと。「も」は係助詞。「がな」は願望を表しており、「もがな」で「〜だったらいいのに」と願望を表す終助詞。この当時の「来る」は「行く」と同じ意味に使われることも多いです。当時の男性の立場で読まれているので「くるよしもがな」で「あの人のところに訪ねて来る(行く)方法があればいいのに」という意味になります。

作者紹介

三条右大臣(さんじょうのうだいじん)(873年〜932年)

平安時代の歌人。貴族であった藤原定方ふじわらのさだかたのこと。第60代天皇の醍醐天皇だいごてんのうの外叔父(母方の叔父のこと)。管弦の名手としても知られていました。

作者に関する逸話

三条右大臣は和歌を普及させるべく、多くの歌人を支援していました。「古今和歌集こきんわかしゅう」の撰者せんじゃで「土佐日記とさにっき」を記した紀貫之きのつらゆきや、六歌仙の一人である凡河内躬恒おおしこうちのみつねなどを後援していました。

決まり字

上の句
名にし負はば 逢坂山の さねかづら
下の句
人にしられで くるよしもがな

「なにし」が決まり字の三字決まりです。

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語呂合わせ

なにし ひとにし
「なにし ひとにし」という漫才コンビをイメージすると覚えやすいです。

イラストレーター

ぬまた こうたろう


監修者

たに ともこ


1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。

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