百人一首の覚え方
067
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
かひなく立たむ 名こそをしけれ
(周防内侍)
上の句|はるのよの ゆめばかりなる たまくらに
下の句|かいなくたたん なこそおしけれ
2024/5/31
※イラストはイメージです
現代語訳
短い春の夜の夢のようなあなたの手枕によって、
いわれのないうわさが立つことにでもなれば、口惜しいことです。
いわれのないうわさが立つことにでもなれば、口惜しいことです。
解説
宮中の雑事を行う女房たちと、夜通しおしゃべりをしていた際に詠まれた歌です。眠くなった周防内侍の「枕がほしいわ」とのつぶやきに、藤原忠家が「これを枕にお使いください」と御簾(すだれのこと)の下から手を差し出してからかってきたときの返しに詠んだ歌。「いわれのないうわさが立ったら口惜しい」という作者の機転のきいた返しに、その場にいた女房たちが大いに盛り上がった様子が浮かんでくるようです。
出典
千載和歌集語句解説
春の夜の
秋の夜が長いのに対し、春の夜は、短くすぐに明けてしまうものであると考えられています。
夢ばかりなる
「夢のような」という意味。「ばかり」は程度を表す副助詞。夢のようにはかないことを表しています。
手枕
腕枕のこと。夜を共にした相手にしてあげるものです。
かひなくたたむ
「かひなく」は「どうにもならない、つまらない」という意味。「腕」との掛詞になっています。「た(立)たむ」の「む」は仮定・推量を表す助動詞。「かひなく立たむ」で「もし(うわさが)が立ったら」という意味になりますが、名詞にかかるので、婉曲(遠回し)表現として訳さなくてもかまいません。
名こそをしけれ
「名」は評判や浮名のこと。「こそ〜をし(惜し)けれ」で内容を強調する係り結びの関係になっています。
作者紹介
周防内侍(すおうのないし)(生没年不詳)
平安時代後期の歌人。後冷泉、白河、堀河天皇の女官として40年ほど仕えていました。
作者に関する逸話
歌人として名高く、多くの歌合に呼ばれていた周防内侍。「後拾遺和歌集」の撰者である藤原通俊や、藤原顕輔と親交が深かったといわれています。夫や子どもについての記録は残っておらず、私生活は謎に包まれています。
決まり字
- 上の句
- 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に
- 下の句
- かひなくたたむ 名こそをしけれ
「はるの」が決まり字の三字決まりです。
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語呂合わせ
春のかい
「春の貝」をイメージすると覚えやすいです。
「春の貝」をイメージすると覚えやすいです。
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。