百人一首の覚え方
040
忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は
ものや思ふと 人の問ふまで
(平兼盛)
上の句|しのぶれど いろにいでにけり わがこいは
下の句|ものやおもうと ひとのとうまで
2023/10/20
※イラストはイメージです
現代語訳
心に隠していたけれど、顔色に表れてしまっていたのだなあ、私の恋心は。「何か物思いをしているのですか」と人が尋ねるほどに。
解説
この歌は、960年に村上天皇が開いた天徳内裏歌合で詠まれたものであることが「拾遺和歌集」の詞書に記されています。
「忍ぶれど 色に出でにけり」を最初に置き、「わが恋は~人の問ふまで」と語順を逆にする「倒置法」を使うことで、はっとした作者の気付きを印象付けています。自分の心の中に隠していたつもりの恋心が顔色に出ていたことに驚くとともに、改めて自分の恋心の大きさを実感した様子が伝わってきます。
出典
拾遺和歌集語句解説
忍ぶ
心に秘める。
色に出でにけり
「色」は顔色や表情のこと。「けり」は「〜だなあ」と詠嘆を表す助動詞。「色に出でにけり」で「表情に出てしまっていたのだなあ」という意味になります。「けり」は詠嘆の助動詞。
ものや思ふ
「思ふ」は恋について思いわずらうこと。この「思ふ」は「もの」のあとに係助詞「や」の結びになり、連体形。「恋について思いわずらっているのですか」という意味になります。
作者紹介
平兼盛(たいらのかねもり)(生誕年不明ー990年)
平安中期の歌人で「三十六歌仙」の一人。光孝天皇のひ孫の子どもである玄孫。平安中期の女流歌人で、百人一首にも和歌が収録されている赤染衛門の父との説もあります。
作者に関する逸話
960年に村上天皇が開いた天徳内裏歌合での壬生忠見との歌の対決が名勝負として有名です。
二十番勝負の最後となった勝負でお題は「恋」。先に披露した兼盛は今回紹介した「忍ぶれど」の和歌を詠み、続く壬生忠見は、百人一首で第41首に収録されている次の歌を詠みました。
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
人知れずこそ 思ひそめしか
(現代語訳)私が恋をしているといううわさがもう立ってしまった。誰にも知られないように、思い始めたばかりなのに。
いずれも優れた歌だったため、なかなか判定がつかなかったものの、村上天皇が「忍ぶれど」の歌を口ずさんだことで兼盛の勝ちになったといわれています。2人の名勝負は、京の都でも大きな話題となりました。
決まり字
- 上の句
- 忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は
- 下の句
- ものや思ふと 人の問ふまで
「しの」が決まり字の二字決まりです。
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語呂合わせ
しのもの
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。