百人一首の覚え方

007
あまはら ふりさけ見れば 春日かすがなる
三笠みかさの山に でし月かも
安倍仲麿あべのなかまろ※)

上の句|あまのはら ふりさけみれば かすがなる

下の句|みかさのやまに いでし つきかも

2023/09/29

※イラストはイメージです

現代語訳

大空を振り仰いではるか見渡してみると、美しい月が出ている。あの月はふるさとの奈良の春日にある三笠山に出ていた月なのだなあ。

解説

遣唐使として派遣されていた安倍仲麿が、数十年ぶりに日本に帰国をするにあたって開かれた見送りの宴の場で詠まれた歌です。
19歳で唐に渡った安倍仲麿もこのとき50歳。唐で役人として順調に出世しながらも、故郷を思い続けていたのでしょう。ふと見上げた月に故郷を重ねるようすからも切実な望郷の念が感じられます。
なお、仲麿を乗せた船は途中暴風雨に襲われ、安南あんなん(現在のベトナム)に漂着。日本にたどり着くことはできませんでした。

出典

古今和歌集こきんわかしゅう

語句解説

天の原

広々とした大空。

ふりさけ見れば

振り仰いで遠くを見ればという意味。「ふり」は接頭語。「さけ」は動詞「さく(放く・離く)」の連用形。「ふりさけ見れ」は複合動詞。確定条件の接続助詞「ば」に接続する已然形。

春日なる

「春日」は現在の奈良市の春日大社のあたり。「春日なる」の「なる」は断定の助動詞「なり」の連体形で「~にある」という存在を示し、「春日なる」で春日にあるという意味。

三笠の山

春日大社のうしろにある山。

かも

詠嘆の終助詞で「〜なのだなあ」という意味。

作者紹介

安倍仲麿(あべの・なかまろ)(706年ー764年)※諸説あり

奈良時代に遣唐留学生として入唐し、玄宗皇帝に仕えて厚遇こうぐう(あつくもてなすこと)された。
李白りはく王維おういといった唐の詩人たちとも親交を深めた。
※万葉集では阿倍仲麻呂と表記されますが、小倉百人一首では安倍仲麿と表記します。

作者に関する逸話

遣唐使として唐に渡った中でも、特に優秀だったと言われる安倍仲麿。官僚登用試験である科挙にも合格し、玄宗皇帝に仕え順調に出世を重ねました。
唐に渡って十数年が経ったときに帰国を願い出るも、優秀な仲麿を手放したくない玄宗皇帝の許しを得ることができませんでした。
そして唐に渡り数十年が経ったところで、ようやく帰国の願い出を許されましたが、仲麿が乗った船は難破。安南(ベトナム)に漂着した後、唐の長安に戻ることとなりました。その後も官僚として働き続けた仲麿は、日本の地を再び踏むことはありませんでした。

決まり字

上の句
天の原 ふりさけ見れば 春日なる
下の句
三笠の山に 出でし月かも

「あまの」が決まり字の三字決まりです。

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語呂合わせ

天のみか
「天の実か?」「天野美香(人名)」などと覚えると覚えやすいです。

イラストレーター

ぬまた こうたろう


監修者

たに ともこ


1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。

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