百人一首の覚え方
012
天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ
(僧正遍昭)
上の句|あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ
下の句|おとめのすがた しばしとどめん
2023/10/20
※イラストはイメージです
現代語訳
天を吹く風よ、(天と地を結ぶ)雲の中の通路を吹き閉ざしておくれ。美しく舞う乙女たちの姿をもうしばらく地上にとどめておきたいから。
解説
美しい乙女が踊る「五節の舞」※を見て詠んだ歌。舞姫たちの姿を天女に見立てています。舞姫たちが舞う姿があまりにも美しく、天女のようなその姿をもっと見ていたいと強く思ったためでしょうか。「天に帰る通路を閉じてほしい」とストレートな願いを詠んで、名残惜しさを表現しています。
※「五節」は、陰暦11月に4日間、宮中で行われた舞姫による舞楽の行事。
※「五節」は、陰暦11月に4日間、宮中で行われた舞姫による舞楽の行事。
出典
古今和歌集語句解説
天つ風
天を吹く風のこと。「つ」は格助詞の「の」の古い形で、「~の」という意味。
雲の通ひ路
雲の中にある天界と地上をつなぐ通路のこと。天女が通る道と考えられていました。
をとめ
舞姫のこと。ここでは「五節の舞」を舞う舞姫たちを天女にたとえています。
とどめむ
「とどめる」という意味の動詞「とどむ」の未然形に、意志を表す助動詞「む」が付いたもの。願望の意味をふくんでいます。
作者紹介
僧正遍昭(そうじょうへんじょう)(816年ー890年)
平安時代の僧・歌人。平安時代の和歌の名人である「六歌仙」「三十六歌仙」の一人。桓武天皇の孫で、出家する前の名前は、良岑宗貞です。僧正とは、僧の役職名の一つ。
作者に関する逸話
出家する前は、仁明天皇の秘書官のトップである蔵人頭として仕え、出世コースを歩んでいました。
しかし、自分をかわいがってくれていた仁明天皇が突然亡くなったことを悲しみ、出家。妻にも内緒で35歳の若さで比叡山に入ったといわれています。
美男子ともいわれていて、出家前は小野小町とも恋愛関係にあったとされます。
決まり字
- 上の句
- 天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ
- 下の句
- をとめの姿 しばしとどめむ
「あまつ」が決まり字の三字決まりです。
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語呂合わせ
あまつおとめ
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。