百人一首の覚え方

035
ひとはいさ こころらず ふるさとは 
はなむかしの ににほひける
紀貫之きのつらゆき

上の句|ひとはいさ こころもしらず ふるさとは

下の句|はなぞむかしの かににおいける

2024/5/31

※イラストはイメージです

現代語訳

あなたはさあ、どうでしょうか。お気持ちはわかりません。でも、旧都奈良(昔なじみのこの土地)では、梅の花が、昔のままのいい香りをただよわせています。

解説

昔、長谷寺はせでら(初瀬の観音)にお参りにいくたびに泊まっていた宿に久しぶりに訪れた際に詠まれた歌。宿の主人から長い間来なかったことを皮肉まじりに指摘されたことに対し、梅の一枝を折って詠んだものだといわれています。旧都奈良や自然(梅の花)は変わらないのに、そんなことを言うなんて(あなたは変わってしまったのですね)と、やんわりと逆襲してみせた、ウイットに富んだ表現が印象的な歌です。

出典

古今和歌集こきんわかしゅう

語句解説

人は

「人」はこの歌を贈った相手を指しています。

いさ心も知らず

「いさ」は下に打消の語句をともなって「さあ、どうでしょうか、〜ない」という意味になります。「心」は気持ちのこと。「も」は意味を強める係助詞。「いさ心も知らず」で「さあ、どうでしょうか、お気持ちはわかりません」という意味になります。

ふるさとは

ここでは生まれた場所のことではなく、昔なじみの土地、つまり奈良を表します。

花ぞ

「花」は桜を指すことが多いですが、ここでは「梅」を指しています。

作者紹介

紀貫之(きのつらゆき)(生年不詳〜945年)

平安時代前期を代表する歌人。平安時代の優れた歌人である「三十六歌仙さんじゅうろっかせん」の一人。「古今和歌集」の撰者せんじゃの一人としても知られています。日本最初のひらがなによる日記「土佐とさ日記」の作者としても有名。

作者に関する逸話

紀貫之が書いた「土佐日記」は、ひらがなで書かれています。当時、仮名文字(ひらがな)は女性が使うもので、男性は漢字を使っていました。そのため、紀貫之は女性のふりをするため、冒頭で次のように示しています。
「をとこもすなる日記といふものを、をむなもしてみむとて、するなり」
現代語訳:男も書く日記(にき)というものを、女の私もやってみようと思って書いてみる
ひらがなで書いた理由については、仮名を使ってみたかった、表現を豊かにしたかった、当時は男性は私的なことを書かなかったため女性のふりをしたなど諸説あります。

決まり字

上の句
人はいさ 心も知らず ふるさとは
下の句
花ぞ昔の 香ににほひける

「ひとは」が決まり字の三字決まりです。

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語呂合わせ

人は花ぞ
人が花になっている様子を思い浮かべると覚えやすいです。

イラストレーター

ぬまた こうたろう


監修者

たに ともこ


1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。

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