百人一首の覚え方
009
花の色は うつりにけりな
いたづらに わが身世にふる ながめせし間に
(小野小町)
上の句|はなのいろは うつりにけりな いたずらに
下の句|わがみよにふる ながめせしまに
2023/10/20
※イラストはイメージです
現代語訳
花の色は、すっかり色あせてしまったなあ。春の長雨が降って、私がむなしく世の中や恋のことについて物思いにふけっている間に(同じように私の美しさもすっかり衰えてしまった)。
解説
すっかり色あせた花に、老いてかつての美しさが衰えた自分の姿を重ねた歌。世界三大美女の一人で、絶世の美女といわれた小野小町が詠んでいることで、嘆きや憂いの深さがより伝わってくるようです。
また、外見の衰えだけでなく、恋が実らずに心もすっかり衰えてしまったという意味もこめられているかもしれません。
出典
古今和歌集語句解説
花の色
花はさまざまな春の花のこと。「花の色」は、花の色だけでなく、女性の若さや美しさも意味しています。
うつりにけりな
「うつる」は「(色が)あせる、変色する」という意味。「うつりにけりな」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形。「けり」は過去の助動詞。「な」は詠嘆の終助詞で、「にけりな」で「〜になってしまったなあ」という意味になります。
いたづらに
「むなしく」「無駄に」という意味。形容詞「いたづらなり」の連用形。
世にふる
「世」は「世の中」と「男女の仲」の2つの意味を掛けています。「ふる」は時間がすぎるという意味の「経る」と、雨が「降る」の2つの意味の掛詞です。
ながめせしまに
「ながめ」は「長雨」と、ぼんやり物思いにふけるという意味の「眺め」との掛詞。「ながめせし間に」で「長雨で物思いにふけっている間に」となります。
作者紹介
小野小町(おののこまち)(生没年未詳)
平安時代の歌人。平安時代の和歌の名人である「六歌仙」「三十六歌仙」の一人。多くの情熱的な恋の歌で知られていますが、その生涯や詳しい経歴はわかっていません。クレオパトラ・楊貴妃とともに世界三大美人といわれています。
作者に関する逸話
絶世の美女として知られた小野小町には、多くの男性が恋心を寄せました。中でも有名なのは、深草少将です。
小町は自分に思いを寄せる深草少将に「私のもとに100日通ってくれたら、100日目の夜にお会いします」と伝えます。深草少将は、その言葉の通り毎夜小町のもとに通い続け、そのたびに榧の実を置いていきました。
はじめは深草少将のことをたくさんの言い寄ってくる男性の一人としか思っていなかった小町も、徐々に思いを寄せ始めます。
しかし、99日目の夜、大雪が降った日に小町のもとに通う途中で深草少将は亡くなってしまいました。※
※榧の実ではなく芍薬、「大雪」ではなく「大雨」という説も。
※榧の実ではなく芍薬、「大雪」ではなく「大雨」という説も。
決まり字
- 上の句
- 花の色は うつりにけりな いたづらに
- 下の句
- わが身世にふる ながめせし間に
「はなの」が決まり字の三字決まりです。
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語呂合わせ
はなのわが
花の輪っかをイメージすると覚えやすいです。
花の輪っかをイメージすると覚えやすいです。
イラストレーター
沼田光太郎 ぬまた こうたろう
監修者
谷 知子たに ともこ
1959年、徳島県生まれ。大阪大学国文学科卒業、東京大学大学院博士課程単位取得。博士(文学・東京大学)。フェリス女学院大学教授。専攻は中世和歌。
著書に『百人一首(全)』(ビギナーズ・クラシックス日本の古典 角川文庫 KADOKAWA)『古典のすすめ』『和歌文学の基礎知識』(角川選書 KADOKAWA)、『百人一首解剖図鑑』(エクスナレッジ)、『和歌・短歌のすすめ 新撰百人一首』(共編著 花鳥社)、『中世和歌とその時代』(笠間書院)、『和歌文学大系 秋篠月清集・明恵上人歌集』(明治書院・『秋篠月清集』本文・校注・解説)などがある。