小中学校の「30人学級」は、いつ実現できる?「40人学級」ではソーシャルディスタンスを取るのが難しい!

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文部科学省は、2021年度の概算要求に「少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備」を盛り込みました。要求額や具体的な内容を示さない「事項要求」としており、12月末の予算編成までに検討するとしています。一方、政府の教育再生実行会議や与党からは「30人学級」を求める声が挙がっています。現在は原則40人学級となっている、公立小中学校の学級定員の引き下げは実現するのでしょうか。

この記事のポイント

民主党政権下でも引き下げ困難

公立小中学校の先生の給与費は、国が3分の1を負担しているため(義務教育費国庫負担制度)、先生の数も、法律(義務標準法)と国(文科省)の予算によって、大枠が決まります。
1学級当たりの児童生徒数(学級定員)は、1959~63年度の「第1次教職員定数改善計画」で50人とされたのを皮切りに、64~68年度の第2次計画で45人、80~91年度の第5次計画で40人に引き下げられました。

しかし定数改善計画自体が、2001~05年度の第7次計画を最後に、15年間も策定されていません。民主党政権(09年9月~12年12月)は、全学年を35人学級とする計画の策定を目指しましたが、結果的に小学校1年生しか実現できませんでした。
その間、通常学級での特別支援教育や、いじめ対応など、子どもの指導が複雑化しているにもかかわらず、原則として40人学級が、約30年も続いてきたわけです。

1人1台端末の整備も後押し!?

そんな中、学級定員の引き下げ論が急浮上したのは、新型コロナウイルス感染症の拡大でした。
3月以降の長期休校後、学校再開に当たっては、クラスの半数ずつを登校させるような「分散登校」を行った学校が少なくありませんでした。全面再開後も、教室内で「ソーシャルディスタンス」を取る必要があります。しかし40人ギリギリのクラスでは、教室が狭く、距離を取ることもできません。

休校措置に伴い、オンライン学習の必要が高まったことも、間接的に影響しています。政府は、1人1台端末の整備を目指す「GIGAスクール構想」の実現を、20年度中に前倒しすることにしました。学校の授業でも、端末を「普段使い」することが求められます。現在、教室の机は、教科書やノートを広げたらいっぱいですが、端末も置けるよう大きくしなければなりません。それには、やはり教室が狭すぎます。
いずれの場合も、教室を広げるより、学級定員を引き下げた方が早い——というわけです。

時間を掛ければ少子化でチャンス

これまでも学級定員をめぐっては、一人一人に目を行き届かせ、きめ細かな指導を行うため、引き下げを求める声が、根強くありました。しかし、国の財政事情も厳しいことから、具体的な検討さえ、はばかられるような状況が続きました。それがコロナ禍によって、一気に引き下げを求める声が高まった、というわけです。

まとめ & 実践 TIPS

文科省は、今後10年程度かければ、少子化に伴って児童生徒数も減るため、それほど国の財政負担を増やさずに、少人数学級も実現できるのではないか、という見通しを持っています。

世界一多忙と言われる先生方に「働き方改革」が求められる中、教職員定数は、教育の質に直結する問題です。ぜひ具体的な検討を進めてほしいものです。


2021年度文部科学省概算要求 発表資料
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668_00001.htm

教育再生実行会議 初等中等教育ワーキング・グループ 第1回配布資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/syotyutou_wg/dai1/siryou.html

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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